「岸野さんのシャーペンがなくなりました。みなさん、心当たりはありませんか?」


帰りのホームルームで、担任の先生が教室を見回してそう言った。


岸野っていうのは、咲子の苗字だ。


やられたなって思った。


シャーペンは、ちょっと前――あたしが無視される前に、咲子から借りたものだ。


だから今も、あたしのペンケースの中に入っている。


だけどそれを言っても、咲子たちはそれを否定するだろう。


貸した覚えなんてありません。藤井さんにとられたんです、って。


はぁ……


ため息が出た。


そう言われたらもうどうしようもないだろう。


美樹と真理子も同じことを言うに決まってるし、他のクラスメイトたちも咲子につくに決まっている。


「せんせーい、わたし、咲子ちゃんのシャーペンを藤井さんが持っているのを見ましたー」


真理子がそう口にする。


「そうなの、藤井さん?」


「……」


そんなの、答えられるわけがない。


咲子はこっちを見てニヤニヤと笑っている。


「藤井さん、ペンケースを見せてもらってもいいですか?」


「……」


先生に言われて、無言でペンケースを差し出す。


その中には、当然のように咲子のシャーペンが入っていた。