だけど彼女には、一つだけ気になることがあった。


僕がそれに気付いたのは、ほんのふとした違和感だったと思う。


皆で話をしていた時に、彼女の表情の奥から、ほんの少しだけ漏れた陰。


普段は明るくて夏の日だまりのような彼女に、似つかわしくない暗い表情が垣間見えたんだ。


一瞬のことだったから、たぶん他のだれも気付いていないみたいだったけれど、それは確かにそこにあった。


それから、何となく彼女の表情が気になるようになってしまった。


通学路を歩いている時、笑っている時、皆で遊びに行っている時。ふとした時に見せる僅かな翳りが、引っかかるようになった。


昴はどうも、それに気付いていないみたいだった。


昴はちゃんと周りへの気遣いもできて気持ちのいいやつだけど、基本的には真っ直ぐだ。


真っ直ぐで、素直で、人を疑うということを知らない。


それは彼女と同じ性質でもある。


だからこそ……そういった人の陰の部分というものには、気付かなかったのかもしれない。


でもそれでいいと思った。


たぶん彼女も、気付かれることを望んではいない。


だったら今はこのままでいい。


いつかきっと彼女の口からそれを話すことができる日が来た時に、応えてあげればいい。


そして、昴にはそれができるのだから。