「? どうしたんだ、梨沙?」


「……」


「今日はいつもより少し早いな……っ、泣いてんのか……?」


昴が慌てた様子で近づいてくる。


「……が、決まったって……」


「え?」


「……おとうさんと、おかあさん……離婚することが、決まったって……」


昴の胸にしがみついて、そう絞り出すように声を出した。


「……やだよ……そんなの……」


「……」


「……本当に、そんなことになるなんて思わなかった……こ、こんな風に、急に家族がバラバラになるなんて、思わなかった……だ、だから……」


昴は、黙って私の話を聞いてくれていた。


口を挟むでもなく、慰めの言葉を発するでもなく、ただ静かにじっと私の目を見て。


やがて少しだけ落ち着くことができて、私は昴を見上げた。


「……っ、ご、ごめんね……急に来て、こんな……」


「いや」


「……私……自分でも分かってなかった。こんなに、両親が離婚するのが嫌なんだって……もっと割り切れるものだと思ってたのに……それなのに、昴の前で、こんなみっともない姿を見せちゃうなんて……」


「……いいからさ」


「え……?」


昴が、静かに言った。


「俺の前では……無理しなくていい。ここなら、だれも他に見てるやつもいないし、泣いたってだれにも聞かれない。見てるのなんて、星くらいか。だから……そのままの梨沙で、いいから」


「あ……」


そんな……そんなこと言われたら、もう……


どうしてそんなに優しいの。


どうしてそんなに、私のほしい言葉を、ほしい時にかけてくれるの……?


限界だった。


私の中で、何かが決壊したみたいに、抑えていた感情が溢れ出してきた。


気付いたら、昴の胸の中で、私は声を上げて泣いていた。


「……す、昴……私、やだよ……お父さんとお母さん、どっちかと会えなくなるなんて、家族じゃなくなるなんて……」


「うん」


「……勝手に決めたりしないで……ちゃんと、私の話も聞いてほしかった……離婚、決める前に、一言くらい相談してほしかった……」


「うん」


「……どうして……どうして、こんなことになっちゃったのかな……? わかんない……わかんないよ……う、ううっ……」


それを、昴は全部聞いてくれた。


私の話を聞きながら、何度も何度も私の頭を撫でてくれた。


優しく滑る、昴の手。


それがとても……気持ちよかった。