「あ……っ……」


一気に押し寄せてきた人波に、巻き込まれてしまった。


あっという間に、紗英たちの姿が遠ざかっていく。


 
あ、まずい、これってはぐれるパターンだ……


何とか抜け出ようとしても、あまりの人の多さに押しつぶされて、動くこともできない。


そんな中、ふいに私の手が、何かにつかまれた。


「梨沙!」


ぐいっと力がこめられて、力強く人の波の中から引っ張り出してくれる。


助けてくれたのは、昴だった。


「大丈夫か?」


「う、うん、ありがとう」


「すげぇ人だからな。梨沙はちっこいんだから、巻き込まれないように気を付けないと」


「う、それは確かに……」


「涼たちともはぐれたみたいだ」


辺りには知らない人の姿ばかりで、涼くんと紗英の姿は見えない。


「ご、ごめんね、私のせいで……」


「いいって。ま、しかたないさ。合流できるまで適当にそのあたりをブラブラしてようぜ」


そう言って、昴が歩き出す。


そして、何かを思い出したかのように手を差し出してきた。


「ん」


「え?」


「ほら、またはぐれるとあれだろ。だから」


「あ……」


ちょっとだけ迷ったけど、私はその手を握った。


ぎゅっと、強く握り替えしてきてくれる。


昴の手は、温かかった。