「凛」
「ん?」
靴を履いて靴紐を縛りながら、アキが呼ぶ。
「今日ゆっくりするならここに居ろよ。晩飯美味いの作ってやっから、期待して待ってて」
靴紐を縛り終えて立ち上がり、ニッと笑ってみせた彼に、私も思わず「楽しみにしてる」と頷いた。
「あ、それと、」
「…?」
まだ言い残したことがあるのか、一度手にかけたドアノブを離してクルッと私に振り返る。
かと思えば、ふわっと、私の体はアキの腕の中へと閉じ込められた。
「アキ?」
「…うん。ちゃんと凛の匂いだ」
「へ?」
何かをポツリと呟いたけど、私の耳では聞き取れず。
「よし、今度こそ行ってきます」
やっと腕を解かれたと思ったら今度は私の頬にキスを落として、満足気に笑いながらあの男は出かけて行ってしまった。