「きっとあの女の陰謀だよ。楠木さんを逃がさないために、計画的に妊娠するよう企んだんだよ」


 「響さん」


 「そうに決まってる。結婚に否定的な楠木さんを掴まえるには、妊娠するのが唯一の手段と考えて。楠木さんははめられたんだよ」


 ……それが真実のような気がする。


 実際、百合さんの妊娠が発覚したことにより、ついに楠木は観念したようだし。


 ただもしも、百合さんの妊娠がなければ楠木は……?


 「まずいことになったね。でもその妊娠って本当なの?」


 「え?」


 「まさか楠木さんをだましてるわけじゃないよね? 子供ができたことを知れば、楠木さんもあきらめて結婚を決意すると思って。入籍を済ませてしまえば、その後嘘だったと分かってももう手遅れって感じで」


 「まさか、そんな」


 「あの女なら、楠木さんを手に入れるためだったら、手段を選ばないよ! もう一度楠木さんに、確認したほうがいいよ。美花ちゃん気まずいなら、私から聞いてみるかい?」


 「いっ、いえ。結構です」


 すでに楠木はカナダに旅立った後のことだったので、結局響さんも電話するのは思い止まったようだ。