「あ、ハーブティー。冷たいので。二つね!」
咲は席に通されるとすぐにメニューを見ることなく店員に告げた。
「おい。僕の注文を勝手に決めないで…。」
「どーせ、チミ。コーヒー飲めないでしょ!あたしも飲めないから…」
咲が横目で光を見た。
御名答だった。確かにコーヒーは苦手だ。メニューを見たとしてもコーヒーは注文しなかっただろう。
「君と一緒にするな!だいいちコーヒー以外にも…。」
「チミね。ここはコーヒーとハーブティー以外にまともな飲み物ないからね!いいよ。今からでもコーヒーに変える?それともホットのハーブティーに変える?」
咲はにやっと笑った。その両者とも選ばないということがわかっているうえでの笑いだとわかった。
答えられずにいるとグラスにたっぷりと注がれたハーブティーが運ばれてきた。
「まあ飲めよ。チミ!」
咲はケラケラ笑いながら乱暴にグラスを置いた。
「君ね!泥棒はダメだって…。なんでやったの?」
光はハーブティーをのどに流した。冷たさとハーブの爽快感が心地よく滑って行った。
「万引きの話?特に意味はないわ。お金だってあるし…。」
咲は全く罪悪感を感じていないかのようだった。
光は少し恐ろしく感じた。罪を罪の意識としてとらえられない社会が怖かった。
「あ。別に罪悪感を感じてないわけじゃないよ。」
光の心を読んだのか咲は光の方を見つめた。
「ただ、その…毎日退屈でさ。だれかにおいかれられてみたかったのよ!」
咲が苦いものをかみつぶしたような顔をした。
「なんだ!それっ…。」
「それよりさ。キャラメルコーンクリームソーダ味。スゴイよ。これっ!」
咲は光の前に袋を掲げた。
「スゴイ?なにが?」
「チミ。食べてみる!百聞は一食に如かずって言うでしょ。さぁさぁ。」
咲は一つ摘まむと光の口元に運んだ。
「口を開けて!」
咲はそういうと光の口の中にほおりこんだ。
シュワシュワっと口の中ではじける感じが楽しい。
「スゴイ…。」
光はつぶやいた。
「でしょ!これはスゴイんだよ。チミも気に入ると思ってたさ!」
「気に入ったとは言ってない…。」
光は自分に言い聞かせるように首を横に振った。