いつまでも、仕事をサボるわけにもいかず、一度フロアに戻る。
なにも変わらない日常がそこでは流れていて。

白銀の姿は、もうそこにはなかった。



「あ、亜子。どこ行ってたの?」

「ごめん。すぐ仕事に戻るね。あの、白銀部長は?」



私を見つけ声をかけてくれた秋穂に問いかける。
秋穂は、私の言葉にきょとんとして首をかしげる。


「白銀部長?誰それ?」

「え・・・」




嘘を言っているようには見えない真剣な瞳で。
すっかり、白銀の存在は消えてしまったようだった。

それが、妖狐の力・・・?


そうまでしてこちらに干渉してきたという事。
尊の記憶を戻すため?

でも、それなら会社に現れる必要なんてなかった。



――殺したい程憎かった人間に助けられ、人間化け、人間の中で生きていた気分はどうだ?


白銀が言っていた言葉を思い出す。
その言葉が本心なら。

人間が暮らす会社で、人間に化けて働く尊のもとに現れて記憶を戻すことで、尊の心に屈辱を植え付けようとした?
そうだとしたら、最低だ。