三枝くんは何も食べないで我慢しているというのに、いくら寝ているとはいえ、三枝くんの分を逢坂くんにあげてしまったから。
詳しい理由は分からないけれど、今度からは気をつけよう。
それより、逢坂くんが言いかけた『香澄』ってなんだろう。
聞いてみてもいいのかな。
「あ、あの、逢坂くん。さっきの話って…」
「ちょっ、鳴海までいいって! こんなやつの話なんて付き合うなよ! 俺のこと知ったって、何のためにもなんねえぞ」
「えっと、そういうわけじゃ…」
どう弁解したらいいだろう。
私が三枝くんのこと知りたいのは、力になりたいからなのに。
すると、ちょうどその時お昼休みの終了のチャイムが鳴った。
あっという間だった。
もっとこの楽しい時間が続けばいいのにって思った。
時間が過ぎることをこんなにも悔やんだのは初めてで、自分でも驚いている。
これも全て、三枝くんとの出会いが始まりなのかもしれない。
あの日の出来事がなかったら、きっと私は今日も教室の隅っこで静かにお弁当を食べているのだろう。
この感謝をどう伝えればいいか、2人のいつも通りの楽しそうなやりとりを、ぼんやりと眺めながら考えていた。