「ありがとう、逢坂くん」


「いや、こんなのたいしたことないよ。それより、逆にこんな部屋でごめんな」


こんな部屋、とは狭さのことか臭いのことか。


申し訳なさそうに話す逢坂くんに、私は全力で首を横に振った。


「勝手に使っていい部屋がここしかなかったんだよ。実は俺、こう見えて男テニの部長でさ」


意外な事実に、へえ、と相槌を打つと、彼はまた照れ臭そうに笑った。


青いベンチに横並びで座り、お弁当箱を開く私と購買パンの逢坂くん。


「鳴海の手作り?」


ふいに聞いてきた質問に私は首を横に振る。


「ううん、お母さんの。料理が上手なんだ。今日もね、起きたらもう朝食作ってて」


「へえ、美味しそうだな」


美味しそう…。


何気ないその言葉が、私の体を包み込む。