「ほら、降りるよ。危ないから、掴まって」
「う、うん」
笑顔で、紳士的なことをさらりとやってのける三枝くん。
生まれてからずっと、あまり人と関わることのなかった私は、もう何が何だか分からない。
1人の人にこんなにも優しくされたのは、家族以外では初めてだ。
ゴンドラから身を乗り出し、足を降ろす。
すると、一瞬頭が真っ白になり、また戻る。
今のは何だったのだろう、と考えているうちに、『一寸成就』の記憶が曖昧になっていることに気付いた。
もちろん、三枝くんの願いも思い出せないようになっている。
何だっけ、聞いたはずなんだけど…。
思い出せそうで思い出せない、もどかしい思いに悩まされるけれど、それよりも大きな言葉が脳裏に浮かぶ。
『俺は、お前が好きだ』
一番大切な人からの、一番大切な言葉だ。
絶対に忘れたくない、いや、忘れてはいけない。
たとえ、『一寸成就』が絡んでいても、時が経っても。