すると、放心状態の私に三枝くんはもう一度言う。
「鳴海が幸せに過ごせますように」
やっぱり間違いじゃないんだと分かった瞬間、三枝くんへの思いが膨らんでいく。
どうして、なんで私の幸せなんか……『一寸成就』は、簡単なことじゃないのに。
なんで、なんで…。
「なんでっ…」
一層涙が溢れ、三枝くんの肩を濡らす。
「信じられないかもしれないけど、嘘じゃないから」
さらに力強く抱き締め、片手で頭を優しく撫でる君は、耳元で囁く。
その仕草に、言葉に、また雨が降る。
分かってる、分かってるよ。
三枝くんは正直者だもの、嘘なんかつくような人じゃない。
だからこそ、余計に信じられなくて、頭が混乱するんだよ。
だって、三枝くんが一寸成就になったあの日は、私たちが初めて声を、目を、思いを交わした日。
そんな赤の他人のような存在だった私の幸せ願うだなんて、信じられる訳ないじゃない。