「ただいま」
玄関へ入り、靴を脱ぎながら誰に当ててもなく呟くと、遠くの方でその返事がする。
「あら、おかえりー。デートだったんでしょう? どうだった?」
するとお母さんがエプロン姿のまま、駆け寄ってきた。
「そんな、デートじゃな…」
否定しようとしたけれど、その瞬間、頭をよぎる言葉があった。
『俺にとっての大切な人は、鳴海だから』
『好き、だから…』
やっぱり、あの状況での『好き』って、そういう意味になるよね。
ってことは、あれが私に対する嘘偽りのない逢坂くんの気持ち…。
じゃあ、返事したほうがいいのかな。
本人はいらないって言ってたけど、あのままにしておく訳にもいかないし。