すると握っていた手を離し、彼はすっくと立ち上がった。


「それだけ…良かったら胸の端っこにでも置いといて。返事とか、そういうのはいらないからさ」


「えっ…あ、うん」


振り返らずに言った逢坂くんの耳は、首は、とてつもないくらいに赤くて、私も上手く答えられない。


じゃあ行こうか、と手を差し伸べると、彼はいつもの爽やかな様子でいた。


その手を握り返しながら、もしかしてさっきのは夢や幻覚だったのでは、と思ってしまう。


だけど…。


『俺にとっての大切な人は、鳴海だから』


あのタイミングで不意打ちで言ってくる感じとか、そういう不器用なところがすごく逢坂くんらしいというか。


なんとも言えないけれど……握った手が、とても熱い。