「香澄!? どうして…」
「ごめんね、紘くん。勝手におじゃましちゃった」
「そうじゃなくて!」
「小春くんに呼ばれたの。今日紘くんが来る予定だから、もう一回ちゃんと話して来いって」
『小春くん』という単語を耳にした瞬間、三枝くんは逢坂くんを睨む。
きっと鈴村さんが来るなんて知らなかったから、彼女と話すための心の準備はまだ出来ていないんだろうな。
とはいえ、今さら逃げ出すなんてこと、三枝くんならしないはずだし、立ち向かってほしいのはやまやま。
だからそっと、ポケットから三枝くんを取り出して、鈴村さんの方へ差し出した。
「鳴海さん…」
「頑張ってください…!」
開いた手のひらから、三枝くんの顔が見える。
どこか寂しいような表情をしているような気がして、私も胸が詰まった。