「名前、知ってるんでしょ…?」
俯きながらに声を絞る三枝くん。
その小さい体はぶるぶると震えていた。
「もちろん」
優しい微笑みで答えを返す母親に、三枝くんは苦しそうに胸を抱えて、大きな涙の粒を1つ落とした。
「……言って」
だんだんと荒くなっていく呼吸と嗚咽。
初めて見た三枝くんの辛い姿に、何かが私の胸を締め付けた。
そして母親は、俯く彼の目をまっすぐに捉えて、こう言うのだった。
「鈴村香澄。それがあなたの家族の名前よ」
一番耳にしたくなかったその言葉は、三枝くんの胸を強く貫いた。
だって鈴村さんは、三枝くんの彼女なのだから。