三枝くんを左胸のポケットに入れて、誰にも見つからないように教室を出る。
校門を過ぎて人通りの少ない道まで歩くと、ポケットの中で三枝くんがもぞもぞと動き出した。
くすぐったくて、なんだかかゆくて。
彼を手のひらに取り出してみると、体をいっぱいに広げ、ぐーっと伸びをした。
「あー、よく寝た」
そして大きなあくびをする。
久しぶりに聞いた三枝くんの声。
数日前と同じで、つい懐かしさを感じる。
それと同時に、本当に本物の三枝くんなんだと実感した。
「お前、驚かねぇんだ」
「えっ、何を…?」
考えごとをしていたせいで、三枝くんの話を聞いていなかった。
また嫌われてしまうかもしれないという後悔とともに、短く返事をした。