夜食を作ったから地下室に呼びに行ったら藍さんは帰る準備をしていて。藍さんは泊まらずに家に帰るらしい。
「せっかく俺の分も作ってもらったのにごめんね。弟が帰ってくるかもしれないから迎えてあげたくて」
結人さんはあまり家に帰らないらしいとあの時の会話から分かっていた。
「いえ、それは大丈夫なんですが。これ、よかったら持って帰ってください」
ラップに包んでおいた夜食を渡す。
「わざわざごめんね」
「お節介なのは分かってるんですけど……もし弟さんが帰ってきたら、一緒に食べてください。ちょっとした会話の糸口になればと思って」
「……明日歌ちゃん」
「藍さんなら、大丈夫だって私は信じてます。応援してます」
私が直接、何か兄弟や家族の関係を修復するために出来ることなんてないけど、信じることなら。
「私なんかで良ければ、話相手として役に立てるかもしれません」
そう言うと、藍さんはぽん、頭の上に手を置いて。
「ありがと。じゃあたまに聞いてもらおうかな」
温かい、温かいなあ。気持ちがふわりとなる優しい、手の温もり。
「明日歌ちゃん、また明日」
「はい。お疲れ様でした」
藍さんはガチャリ、ドアを開けほの暗い外の紺色に紛れて行ってしまった。
見送ってからリビングに行くと、3人共まだ夜食に手を付けていなかった。
「明日歌ちゃん、ここに座って」