わかってる。好きな人に信じてもらえて、陰での仕事も見てもらえてて、それに好感を持ってもらえて褒めてもらえている。


最高の褒め言葉をもらえてるって、わかってる。



わかってるけど。



「いい、かな?」



俯く私の顔を不安げに中原君が覗き込んできた。私はもう声が出せなくて、そっと頷くしかできなかった。



でも、私がそっと頷くと、中原君はパッと笑った。


「よかった、ありがとう!!じゃあこれ、よかったら登録しておいてもらえると嬉しい!!」


赤い顔のまま、中原君は小さな紙を私の手に握らせた。中原君の少し冷たい指先の温度が、私の手に伝わる。



「じゃあ、突然話しかけてごめんね!!また明日!」



中原君はそう言うと、恥ずかしいのか足早に立ち去った。


私を残して。




中原君の足音が消えた頃、私はこみ上げてきてたものを堪えられなくなってしまった。



気づけば頬を涙が伝っていて、地面が崩れる錯覚に耐えられなくなり、私は膝からその場に崩れ落ちた。


口から溢れる嗚咽や止まらない涙。床に打ち付けた膝はジンジンと痛んだけれど、それよりも胸が痛くて、痛くて、痛かった。


中原君が、初めて私にあの笑顔を向けてくれた。


中原君が、初めて私の仕事を褒めてくれた。


でも、それは全部私のためじゃなかった。中原君は私を見ていたけれど、本当は私を見ていたんじゃなくて、私の隣にいるリカを見ていたんだ。


私なんて、リカを見ていたら視界のすみっこに入り込んでいたからたまたま目についていただけ。



そう思ったら、一瞬でも舞い上がった自分がバカみたいに思えてしまった。


嬉しかったのに、嬉しかったのに。笑顔を向けてくれて、話しかけてくれて、仲良くなりたいって言ったら喜んでくれたのも、嬉しかったのに。



また、胸が締め付けられるように痛むけれど、これは幸せだから痛いんじゃない。


悲しくて、切なくて、ただただ苦しくて、心がちぎれそう。



好きなのに。中原君のことが、好きなのに。中原君は、本当は私のことなんて見てくれていなかった。



「バカみたい…………」



涙で濡れた私の唇からこぼれたのは、そんな言葉だった。


頬を伝う涙がポタリと私の手に雫で水たまりをつくった。その時私は、手の中に中原君がくれた小さな紙があることに気づいた。



涙でぼやける視界で、私はくしゃくしゃのその紙をそっと開いた。



そこには、中原君のSNSのIDが書いてあった。




ねぇ、中原君。
私はあなたのことが好きです。


きっと、まだ諦められないし、リカとの恋も素直に応援できないと思う。でも、私は中原君と一緒にいたいの。



自分の気持ちに蓋をして、覆い隠して、絶対に見えないようにばれないように隠し続けるから。


緊張だってしないようにするし、挙動不審にならないように、違和感を作らないように頑張るから。






だから、私に、あなたの友達としてそばにいさせてください。





自分の気持ちに嘘をついたら、今よりもっと苦しくなることなんてわかってた。




それでも、どんなに苦しくても、側にいたいと思うくらいに、私は中原君のことが、好きだった。