家のドアを開けてリビングへと向かう。
「...ただいま」
一応、言ったけど「おかえり」って言ってくれる人はいなくて。
ほんとにお母さん達行っちゃったなぁ。

いつもは家に入ると「おかえり!ちょっと凛聞いてよー...」とかお母さんが話しかけてくるのに。
リビングは明かりもついてないしエアコンもついてないから何か寒い。
静かすぎて怖いなぁ。

執事さんもまだ来てないし。
「寂しいなぁ...。」
菜穂でも呼んでお泊まり会でもすればよかった。

ドアが開いた音がして足音が聞こえる。

「おかえりなさいませ、凛さま。」
いきなり話しかけられて少し驚いてしまった。
恐る恐る後ろを振り向くと、まるで小動物を見るかのような笑顔でこちらを見ている男子がいた。
ふわっとしている栗色の髪。優しそうな瞳。
180cmあるであろう大きな身長。
「...もしかしてあなたが天野玲君ですか?」
「はい。私のことは呼び捨てで構いませんよ。今日からお願いしますね。」
この笑顔、クラスメイトの子達なら惚れてしまうんだろうなぁ。

でも私は2人っきりという状況に耐えれず精一杯の作り笑いで「よろしくお願いしますね!」とだけ言い、逃げるようにして自分の部屋へと向かった。