「ねぇ?お祖母様、王子様見つかったの?」

「いいえ、リリア
王子様は今もまだ見つかっていないのよ」

「そうなの?」

「ええ。このお話は十年前に描かれたお話なの。
王子様がまだどこかにおられるのならきっとあなたと同い年ね」

「へぇー…」


この本は話に登場するセント・ラピスという国の文字で書かれているの

そう言ってお祖母様は私には読めないその本を読んでくれた



内容はただの物語
実話なのか空想なのかも分からない内容


どうしてお祖母様はこの文字が読めるの?って聞いたら

また今度教えてあげるわって返された






「さあ、もうお休みなさい。
明日またローサちゃんのところへ行くのでしょう?」

「そう!明日はローサの誕生日パーティーなの!」

「あらあらじゃあとびっきり可愛らしいお洋服とローサちゃんに差し上げるプレゼントを用意しなくちゃね」

「お祖母様、服は少し大人っぽいものがいいわ!」

「そう?私は可愛らしい方がいいと思うけど…
明日は早く起きるのよ?
準備がたくさんあるからね」

「はい、おやすみなさい」

「おやすみリリア」














ーーーーーーーーーーーーー


リリア…

私の名前はリリア・メルシウ…

(いいえあなたの名前はリリア・メルシウではないわ)

!?
何?あなたは誰?

(あなたはリリアでもないし、あなたはお祖母様の孫でもないわ)

そんなはずないわ!嘘言わないで!

(あなたは真実を知らないだけ
あなたは…













現実を見ていないだけ)



「っ!?…はぁはぁ…はぁ」

夢…?



私が…知らない…真実


何だったんだろう、今の夢…


「リリア起きましたか?」

「…」

「リリア?リリア?」

ガチャ

「リリア?起きてるなら返事くらいしてくださいな」

「…!あっ…お祖母様…
ごめんなさい、すこしぼうっとしていて」

「寝起きだからかしら?
今日はローサちゃんのお誕生日なのでしょう?
とびっきり可愛らしいお洋服とプレゼントを用意しておいたから早く降りていらっしゃい」

「ありがとうお祖母様」


パタン


いけない、夢に惑わされてお祖母様に心配かけちゃった

ローサの誕生日盛り上げなくちゃ!








「お祖母様!私もう16歳よ!
そんなふりふりのレースがついたドレスなんて似合わないよ!」


「あら、そうかしら?
あなたはとっても美しくて可愛らしいから似合うと思うわよ?」

「えー…そうかな〜…」

「そうよ!さっ、着替えましょ」

うーん…どう考えても幼く見えると思うんだけど…

まぁいっか!







「お祖母様着替えたよー!」

「どれ?よく見せて?」

そう言ったお祖母様は私を鏡の前に立たせる

5フィート(約152センチ)の小柄な体に、透けるくらい真っ白な肌
小さい顔に収まったパーツ
目は綺麗な群青色でぱっちり大きく、それを覆うようにばっさりと睫毛が生えている
鼻は小ぶりで、口も小さいのにぷっくりと膨れてつやつやだ
おまけにお祖母様の言いつけで切らなかった髪は柔らかい金色のゆるくパーマがかかった、いわゆる天パというやつ

人はみんな私を見てそういう
“まるでお人形のよう”とも


それはつまり“幼く見えて可愛い”ということだろう


私はそれが嫌だ
なぜ?

それは…私が大人の女性に憧れているからだ!


「とても似合ってるわよ
さぁ行ってらっしゃい」

「うん」

「あ、プレゼント忘れてたわ
はいこれ。ローサちゃんによろしくね」

「わかったお祖母様。行ってきます」


この地域は結構お金持ちな人が多い
その中でもローサの家は1番大きくて、今日のパーティーは主に貴族の人たちが来るパーティーだ



そろそろローサの家が見えてくる頃

「リリアーー!こっちこっち!」

「ローサ!いいの?家にいなくて」

主役はローサなのに玄関で両手をぶんぶん振っている


「いいの!だってみんな叔父さんや叔母さんでつまらなかったんだもん」

ずばり直球すぎるよ…

「へーそうなの
あっこれ、ローサの誕生日プレゼント!」

「わぁ!ありがとうリリア!
さっ中に入って!お菓子やお料理もいっぱいあるよ!」

「やったぁ!お邪魔します」

ローサの後について家の中に入ったけど…
やっぱりすごい大きい

私の家もお祖母様が昔貴族の方だったそうで、大きい方だけど…
比べものにならない…


エントランスは吹き抜けで綺麗な花束がそこら中に飾ってある
奥はこれまた明るくだだっ広い空間がパーティ会場になっているようだ
立食パーティー用にお料理やお菓子の並べられたテーブルが幾つも立っている
その周りで貴族の方と思われる煌びやかなドレスやタキシードを着た人が笑顔で話している


「私この格好で大丈夫かな…」

「何言ってるの?すごい似合ってるよ!
だってリリアはこの街1番の美人じゃない!」

この街1番って…

「大袈裟だよ…
それに私はこんな子供みたいなふりふりじゃなくて、ローサみたいな背中の開いたセクシーなドレスを着たかったの!」

ローサは背中を開けて色気を出している真っ赤なドレスと長い足によく似合う赤いヒールを履いていて、誕生日の主役にふさわしい雰囲気を出している

「私はリリアみたいな可愛い女の子が良かったけどなぁ」

「もう、思ってもないくせに」

「あっバレた?でも本当にリリアはそれが一番可愛いわ
こんなのもっと大人になったらいくらでも着れるんだよ?」

「うーん…そうかなぁ?」

「そうよ、着られるうちに来ておくものよ♪」


とか言っていつもローサには流されてしまう…

まぁいつか着たいとは思うけれど今は無理だって自覚してるつもり




「まぁまぁリリアちゃん!いらっしゃい
今日はローサの誕生日会に来てくれてありがとうね、楽しんでくださいね」

「はい!ありがとうございますマリア叔母様」

「うふふ」


マリア叔母様はローサのお母様でとっても綺麗な人
公爵だったローサのお父様が一目惚れして結婚なさった、と昔聞いたことがある


「リリア!実は驚かそうと思って言わなかったんだけど、このパーティーに王子様がいらっしゃってるのよ!」


王子様!?

「どっどういうこと?
王子様呼べるくらいお金持ちだったの?」


そうだったら私とんでもない人と友達ってことになっちゃう…!


「ん〜お金はあまり関係ないかな…?
この前までお父様がサンキ・テラスにお出かけなさったの
王様へのご用事だったみたい」


サ…サンキ・テラス!?

サンキ・テラスといえば今世界を支配するほどの強力な力を持つ王国
軍事力だけでなく外交や貿易でも街を発展させた現国王
さらに物凄く頭が良くて国王の右腕として活躍している王子がいるって聞いたことある

「そこで王様にお会いしたらとても気に入られたっておっしゃってたわ!
とても嬉しかったのでしょうね
私のパーティーのことをお話しなさったの
そしたら王様もいらっしゃるっておっしゃられたみたい!」

「えぇ!王様がパーティーに!?」

しかもサンキ・テラスの国王様が!?


「初めはね
でもやっぱり来られなくて代わりに王子様がいらっしゃったの」

へぇーそんな凄いことが現実に起こるんだ…



「…あっ忘れてた
さっき王子様にリリアのこと話したの」


はあ!!??


「そしたら王子様が話したいって
ふ・た・り・で!!
今2階のお部屋で待っておられるわ」


「ええええ!!!??ちょっ…まっ…」

「さあさあ早く、いってらっしゃ〜い」


「おっ押さないで〜〜!!」



ぱたん…

あぁ…もう何が何だか…

王子が待ってるって言いながら、ローサは私の背中をぐいぐい押して無理やり部屋に押し込められた…


「こんばんは、リリア姫」


びくっ…

「すみません、驚かせてしまいましたか?」

そう言ってふわっと笑った青年…

って絶対王子様でしょ!


スタイル、振る舞い、笑顔、顔!
全て完璧だもん…


「あ…あの…」

「私はレイシア・フェアールと申します
どうぞよろしく」

自己紹介しながら王子様は片膝をつき私の右手の甲に軽いキスをする


「ああああの!!そんなやめてください!
あなたは王子なのでしょう!?
そんな私なんかに…だめです」


「どうして?」


どうして!?
そんなのあなたと身分が違いすぎるからに決まってるじゃない!!!


「み…身分が…ちっ違いすぎます!」


「…」


えぇ!?なんで無言!?

なんかまずいこと言っちゃったかな……



「くくっ…」

「へ?」

「あ、いや…」


もしかして馬鹿にされた?


「馬鹿になんてしていませんよ」

「ほぇ?…なっなんで分かったんですか?私声に出て…?」


「いや?出ていませんよ
顔にはおもいっきり出てたけど」


「えっ?えっ?」


「どうやら本当に覚えてないようだし、名前もリリアなんかになっちゃってるし」


覚えてない?
リリアなんかになっちゃってる?

どういうこと…?


「まぁそのうちわかるよ」

「!?
なっなんで思ってること全部わかるんですか!?」


「 ……からだよ」

「へ?」

「いや…だって全部顔に出てるし」


え……そうなの?

そんなに分かりやすいほど顔に出るタイプなんて思ってなかった…
注意しなきゃ…



「まぁ気をつけても俺はお前のこと何でも分かるから」


「どっどういうことですか!?」


「さぁね」


ぱたん


意味深な言葉を残して王子はこの部屋から出て行った

でも後半ずっと王子っていうより普通の男の人みたいだった

一人称も俺、だったし、喋り方も敬語じゃなくて少し意地悪だった


「変な人だったな…」

これ王子に聞かれてたら私死んじゃうけどね