ーー大丈夫?
ハッとしたのは、そんな声が聞こえてきたからだった。
夢うつつから一気に現実に引き戻された声は俺ではなく、もちろん迷子にかけられた物であるが。
ーー泣いちゃ駄目だよ。泣いたら余計に悲しくなるんだから。私が何とかするから、泣かないで。
そう言って、子供の頭を撫でる彼女から俺は目が離せなかった。
単なる優しさにせよ。どうしようもなく、“あれが欲しい”という感情に見まわれた。
泣くことさえも忘れかけた身。なのにどうして、こんなにも感情が高ぶるのか。
優しさはどこにでも落ちている。彼女でなくとも同じ優しさを持つ奴はいる。それなのにどうして、俺はその対象とならず、俺もまた彼女から目が離せなかったのか。
飢えが、より酷くなった気がした。
求めていた物を見つけ、それは俺の手に入っていないものだったから際立ってしまう。
ーーああ、だから。