ーー私がいつ、こんなことを望みましたか!



それは、予想もしていなかったことだった。

彼女がいた。理解する前に、俺の頬を叩き、首もとのロープを奪い取る。息を荒げて、俺を罵る言葉ーーバカ、バカと、繰り返して、何度も叩かれた。

彼女が望むなら殴られてもいいと思っていたのに、どうしてこんなにも痛く思えるのか。こんなにも弱々しい力が、どうして痛かったんだろう。

ーーしっかりと、私と向き合って下さいよ!私はもう、あなたと向き合っているのに!



向き合ってきたじゃないか。ずっと見ていた。四六時中、飽きることも知らず、見てきたし、彼女が俺に苦しまれていたことも理解していたのに。

「どうしてまた、俺のところに来てくれるんだ……っ」

そうして、そんな奴のために泣いて怒る彼女と向き合った。

また、俺は『不正解』だったのか。もう何をしても彼女を泣かせるしか出来ないというのに。

「俺にどうしろって言うんだ。もうこれ以上、君に嫌われたくはないのにーー愛したら余計に、嫌われるのに、どうしろって……!……言うん、だ」

もう、その答えは出ている。
彼女が目の前にいる時点で成立しているんだ。

向き合え。
自ら命を絶とうする俺を泣いて止める彼女と。しっかりと。

「なんで、君はそんなにも、俺に優しいんだ」

俺と向き合ってくれようとしてくれるんだ。


その答えも、もうとっくにーー。