「整形したんだ。君に気に入られたくて。そうして、さっきのはね彼女じゃないよ。君とつき合うための予行練習かな。そんなのが何人もいたから、周りからは遊び人と言われたけどずっとずっと俺は君一筋なんだ。あんな勘違いに逆恨みされちゃ怖いよね。君が何かされる前に手を打っておくから安心してよ」
全ては、恋人(君)とつき合うために必要なこと。
彼女とて、俺に好いてもらうように出会う時は必ず化粧をし、可愛らしい服を着てくれている。俺の整形だってそれと同じだ。身だしなみはきちんと整えなければいけないし。
彼女がインターネットの検索を使い、男性に好まれる料理や言葉、プレゼントなどを調べているのも知っている。様々な事例をリサーチし、最終的に俺が喜ぶことを選ぶ。俺が今までしてきたこととさほど変わらないだろう。俺も女性と接点を持ち、その中から彼女に喜ばれるものを選んで、実行している。
重くなんかない。彼女もしている。許容範囲内のことだ。
けれど、先ほどみたくデートを台無しにされるのはきつい。
「どんなお詫びをすればいいだろう?ごめんなさいで済むことではないのは分かっている。嫌な気分が解消出来るよう、好きなだけ殴ってもいいよ。俺でも、もしくはさっきの女がいいなら連れてくるし。ああ、そうか。
君は俺のことを好きでいてくれているから、殴るなんて出来ないよね。優しいし。なら、言ってくれれば自傷するよ。それで君の気分が晴れるなら」
俺は笑っていられる。
せっかく埋めた溝をまた作りたくはない。
罪があるなら、罰を受けるべきだ。この世界の法律なんだ。守るべき『正常』な他ないこと。
全部、俺が悪い。今まで接点を持った女を始末しておかなかった俺がいけないんだ。
また『正常』な恋人関係でいよう。
そう言った矢先、彼女は震えた声を出す。
ーーやっぱり、間違っていますよ。こんなの。違う……!
きちんと聞き取れた言葉のはずが、把握出来なかった。
同じ言語のはずが意味を理解出来ないでいる。ただ分かったのは、彼女が俺から逃げようとしていること。
走ろうとする体を掴まえる。
掴まえた、その先は?
離して下さいと訴える彼女。その通りにすべきなのだろうけど、何が正しいことなのか分からなくなった。
ようやっと、さっきの意味を把握する。
間違っていたんだ、俺は。あの『正常』が間違っていたなら、果たして何が『正解』になるのだろう。
何をしても『不正解』になってしまう。なら、試していないことを手当たり次第にやってみるしかないか。
『正常』な良い恋人を演じてきた。その逆、喉元で蓋をし、叫ばずにいたことこそが彼女にとっての『正解』になるかもしれない。
試してみよう。駄目ならまた、他のことをしよう。
ひょっとしたら『不正解』ばかりになってしまうかもしれないけど、彼女は俺を愛してくれている。
何をしても、受け入れてくれるんだ。