努力の甲斐あって、また縮まった距離。安堵し、彼女とまた出会える日々の素晴らしさを噛み締める最中ーー神様がいれば呪いたくなる事態があった。
彼女とのデート最中、久しぶりと声をかけられた。女だった。バラの香水をまとう、髪の長い女だ。女は気さくに俺に話しかけながら、品定めするような意地悪な笑みを浮かべて彼女を見ている。
『これが新しいの?今は何日目なの?ねえねえ彼女さーん。気をつけなよ。こいつ結構な遊び人の整形野郎だからさー』
脳内から削除していた女のはずが、その言い草から昔つき合っていた女(実験台)の一人であるのは察せた。無論、彼女とて察しただろう。より悪い方向に。
振った腹いせなのは目に見えていた。彼女の恋人となるための踏み台にしたのが、相当気に入らないらしい。
表面上、俺は完璧な彼氏を演じられていた。これは彼女なんだと自己暗示をかけ、無理にでも相手をお姫さまのように扱った。それがなかなか真に迫っていたらしい。別れる時はいつも、一悶着あったものだ。
後腐れなく、深い関係など持っていない。そこに至るからこそ別れを切り出した。あるのはせいぜい手を繋いだ程度。それも最初の内だけで、手を繋ぐ度に手の皮が剥けるまで洗い尽くし消毒を繰り返したものだから、荒れた俺の手を掴むことなどしなかったくせに。逃がした魚は大きいと言わんばかりに、つっかかってくる女に連絡先を渡す。
奴の連絡先だ。女に不誠実な奴だが、毎夜毎夜違う女の相手をしているようだから、きっと楽しませてくれる。俺とは違った意味で“丁度いい彼氏”になるだろう。何なら、他の男でも紹介するか?
別の連絡先を渡す前に、女は目をつり上げ何事かを叫びながら立ち去った。迷惑な実験台だった。
せっかくのデートを台無しにされたお詫びは何がいいかと彼女に謝罪をしていれば。
ーー整形って。それに、遊びって。あの人はあなたの彼女だったんですか。それなのに、あんな言い方……。
ああ、と思う。
そういえば、言ってなかった。
最初は嫌われてしまうのではないかと言うのを躊躇ったものだが、今なら話しても構わないだろう。
俺たちは相思相愛なんだ。前回の溝はもう修復されただろうし、重い愛でなければ大丈夫なんだ。