私が中1のときのこと。お母さんのお腹の中には男の子がいて、そのお腹はそろそろ生まれてきそうな程、膨らんでいた。


11月9日(金)朝から雨。いつもと変わらず学校へ行って1時限目の授業を受けていた。ところが、廊下から学年主任の遠藤先生が慌てて入ってきて、
「来夢さん!今すぐ校長室へ来てください!!」
と。何事かと思い私は校長室へ急いだ。


校長室には、お姉ちゃんもいた。何だか顔色が悪い。
「どうかしましたか?」
私はこの訳のわからない状況を遠藤先生に聞いた。
「落ち着いて聞いてください。あなたのお母様が先程、お亡くなりになりました」
‥‥‥え、何で?どうして?朝あんなに元気だったのに。お姉ちゃんは涙目になっている、私がしっかりしなくてどうする!
「先生方、ありがとうございました」
ペコっと頭を下げて校舎を後にした。お互い傘をさして無言で病院まで走る、言葉を発さずとも今思っていることは同じだろうと二人は思っていた。


病院へ着くと、すでにお父さんがいた。お父さんは蒼白な顔で二人に言った
「ごめんな、未夢、来夢。お父さん、お母さんを守れなかった。お母さん病気だったんだ、それでも薬は飲まずに、お腹の子を元気に生ませるんだ!って言って」
「そうだったんだ‥‥」
お姉ちゃんは涙目だった目から涙がこぼれて幼い子供のように泣いている。それを見たお父さんは何か思い出したのか
「そうだ、二人に見せたいのがあるんだ」
と言って歩きだした。


オギャーオギャー、え?赤ちゃん?
「そう、ここは生まれた赤ちゃんを預ける新生児室なんだよ」
「でも何でここに来たの?」
「ほら、この子。かわいいだろう?」
って言われても誰の子かも知らないのに、
「お母さんがね、この子が生まれたら名前は“亜人夢”にするんだって言ってて、だからこの子は今日から亜人夢だ。そしてお父さんの息子でもあり、二人の弟でもあるんだよ」
え?
「うそ?!生まれたの!!?」
私は思わず叫んでしまった。お姉ちゃんは泣きながらニヤニヤ顔になって
「この子が今日から未夢の弟か~、お姉ちゃんって呼ばれるのか~」
と言っている。
「いやいや、“二人”のでしょ!あと、お姉ちゃん呼ばわりだと私も振り向いちゃうよ!」
とお姉ちゃんに抗議した。


「お誕生日おめでとう、来夢」
いきなり、お父さんが言い出した。あ、そうだ。今日私の誕生日だった。

「来夢、亜人夢と誕生日一緒だね!いいな〜未夢だけ仲間外れじゃん!!」

「やったね!亜人夢おめでとう、私おめでとう」


ブーブー ブーブー


ポケットに入れておいたスマホが鳴った、電話だ。とりあえず、外に出よう。

『もしもし、夕希?あ、うん…お母さんが亡くなった。私は全然大丈夫だよ、うん、無理なんかしてないよ、そっちは時間平気?授業始まっちゃうよ、うん、わかった。じゃあね』

夕希は小1のときから親友で私の良き相談相手。


私は電話を切るなり、屋根のあるところから屋根のないところまで歩いて雨の空を見ながら雨に打たれながら、呟いた。「私みたい」
ふいに我慢していた涙が溢れんばかりにでてきた。お姉ちゃんの泣く姿よりも、もっと幼い母親に甘えている子供のような。


私ね、お母さんにもっともっと甘えたかった!けど、甘え方がわからない。お姉ちゃんみたいに、あれが欲しいとかこれ買ってとか言えなかった。私が遠慮すればお姉ちゃんが幸せになると思って‥


ぐいっ


え?後ろから誰かが引っ張ってる。傘をさしていて姿が見えない。


その人は私と一緒に病院の中まで来た
「おまえ、バカなの?」
←第一声がこれ。傘をたたむなりハートにグサッとくることを言い出した。今はとても言ってほしくないお言葉に反撃すら出来ないでいると、
「風邪引くだろ、ちょっとここで待ってろ」
もう一文加えて、どこかに走って行ってしまった。何だったんだろ?と思いながら自分の制服がびしょびしょなことに気付き体温がいっきに下がったことを実感した。


「おい、おまえ!あそこで待ってろって言っただろうが!!」
ふぇ?さっきの人だ、お怒りのご様子‥。また体温が下がった気がする。
「ハックション!」
ああ、本当に風邪引いたかも。

ぺとっ
「あつっ!!」
「ほら、これでも飲め。少しは温まるだろ。あと、タオルで体拭け」
あ、この人私の為に‥‥
「でも、おしるこって(笑)」
「うっせ!それしか無かったんだよ、飲まないなら俺が飲む//」
「飲ませていただきます〜」

この人って怖いけど本当は優しいんだな。

あれ?なんかクラクラしてきたーー


バタッ!



「おい、しっかりしろ!」