「竜一匹が隠れられる場所があるとしたら……」

「忘却の山以外には存在しないわね」

「私もそう思います」
 
確かにあの山だったら、竜の一匹くらい余裕で姿を隠せるだろう。

でもいくら竜でも、忘却の山に入ったら記憶を忘却されてしまう。

ムニンみたいに、忘却の魔法を防ぐ方法を取らない限り。

「でもあそこには今、魔法警察が出入りしている。今のところ竜を見た、何ていう報告は入っていないしな」

「……そうですか」
 
ザハラは【残念です】と呟くと拳に力を込めた。

その姿を見て、私たちでは彼女たちの力にはなれないのだと思った時だった。

「でも、竜探しは引き受けるよ」

ザハラはアレスの言葉に瞳を揺らすと、苦笑した笑みを浮かべた。

「……良いのですか?」

「別に構わないさ。俺は困っている人は放っておけないんだ」
 
その言葉にカレンとロキは笑いを零した。

二人に釣られて私も笑顔を浮かべて、【ああ、やっぱり】と思ってしまった。

「……では、依頼の件は成立と言うことでよろしいですか?」

「ああ、良いぜ」
 
ザハラそう言うと立ち上がり私たちを見下ろす。

「でしたら、あなた方にもう一つ話しておきたい事があります」

「なんですか?」
 
ザハラは部屋の扉の側に立つと、私たちに目を配った。

「なぜ、我々竜人族がエアから与えられた領土を捨て、この地に移り住んだのかと言う話ですね。でも、その前に……」
 
ザハラは扉のドアノブに手を置き、扉を自分の方へと力強く引く。

その時、剣や槍を持った武装した竜人族たちがいっせいに流れ込んできた。