「……」
 
何も言わず私の言葉を聞いていたアレスは立ち上がって、そのまま隣に来るとそっと体を抱きしめてくれた。

アレスの行動に軽く目を見張った私は、薄緑色の瞳に彼の存在を映す。

「あ、れす?」

「大丈夫だ。何も怖くないから。俺がお前の隣に居るから」

そう言ってアレスは私の背中を擦ってくれた。

彼の声音はとても優しくて、私は素直に体を委ねる事が出来た。
 
やっぱり……アレスの側に居ると心が落ち着く。

体を支配していた【恐怖】と言う名の震えも治まり、私はそっと目を閉じた。
 
すると直ぐに睡魔が襲ってきて、そのまま夢の中へ誘われるまま、私は意識を手放した。

✭ ✭ ✭

「寝ちゃったか……」
 
腕の中で寝息を立てているソフィアの体をそっと抱き上げ、そのままベッドへと寝かせる。

「はあ……」
 
ベッドの近くにある椅子に座り直し、俺は軽く溜め息を零した。
 
ソフィアが強くなりたい気持ちは分からなくもない。

でも今のソフィアの中にある雫は不安定なんだ。

そんな状態で魔法を使ってしまうから、体へ負担が酷く掛かってしまっている。
 
一番酷い時は三日三晩も体が高熱に襲われていた。

息をするのもやっとで、起き上がることも食事をすることもままならなかった。
 
そんなソフィアを見るのが辛かった俺は、テトから貰った薬に頼る事しか出来なかった。

何も出来ず、ただ見ていることしか出来ない自分に心底腹が立つ。

「……クソ」
 
拳に力を込めて唇を強く噛みしめる。

「あらあら、そんな怖い顔をしてどうしたのかしら?」
 
すると肩の上にソフィアの使い魔であるテトが乗って来た。

飛び乗ってきた拍子に首に巻いている真っ赤なリボンが揺れ、首元から吊るされている使い魔の紋章が掘られたブローチが光輝くのが横目に入ってきた。