ムニンは刀身を掴んでいた手を離すと、じっとブラウドを見つめる。

そしてブラウドが何かムニンに言葉を発しようとした時だった。

「騒がしいぞ!」

「――っ」
 
私たちの頭上で甲高い声が響き渡った。

「こ、この声は!」
 
その声に兎人族たちは心辺りがあるのか、それぞれ怯え始める。

「この場所を我ら森人族の縄張りと知っての争いか? ならその命を、我らに捧げると言う事で良いのか?」

「ひぃぃぃぃ!」

「も、申し訳ございません!!」
 
すると兎人族たちは、負傷した仲間たちを連れて元きた道を戻り始める。

その様子を横目で見ながら、私はアレスに目を戻す。

「アレス」

「……っ」
 
ムニンも逃げていく兎人族たちに目を配っている。

ブラウドも上を見上げると、そのままムニンに背中を見せ、森の奥へと戻って行こうとする。

それを見たムニンは、慌ててブラウドに声を掛けた。

「お、おい! 話しはまだ!」

「悪いが話しはここまでだ」
 
そう言ってブラウドは、地面を強く蹴ると高くジャンプをし、森の奥へと消えて行った。

「おい、誰か来るぞ!」
 
ロキの言葉に私たちは、いっせいに前を向いた。

こちらへと歩いて来る足音が聞こえ、アレスは私を背後に庇うように立ち、カレンとロキもそれぞれ構えた。

「貴様らはなぜ、六月の岬へと向かうのだ?」
 
腰まである長い金髪を揺らしながら、その人物は私たちの前に姿を現した。

「我は森の番人。森人族のベル。さあ、お前たちの応えを聞かせて貰おうか」
 
私たちと同じ背丈に、横に長い耳、細められる橙色の瞳。そしてこの場に居る誰もがこう思っただろう。

「なんて、美しいのだろう」
 
と。