「六月の岬に用事があるだけだ」

「……その言葉、信じられると思うのか?」
 
男の言葉に周りに居る兎人族が一斉に声を上げた。

「そんなの嘘だ!」

「こいつらは森を荒らしに来たんだ!」

「俺たちを殺しに来たんだろ!」
 
そんな見当違いのことを言われ、ムッとした私は何か言い返そうとした時、アレスが先に声を上げた。

「俺たちはそんなことしない! 本当に俺たちはこの先の岬に用事があって行くだけなんだ!」
 
しかし兎人族たちはアレスの言葉を聞こうとはしなかった。

「残念だが、俺たちは人間族を信じていないんだ。もし本当のこの先に用事があるんだって言うなら、それを証明して見せろ!」
 
その言葉と同時に、兎人族たちは一斉に私たちに襲い掛かってきた。

「まったく、仕方ないわね」
 
カレンは鞘からサファイアを抜き。

「アレス、ソフィアちゃんを守ってくれよ!」
 
右手を構えるロキはアレスに軽く視線を送ると、カレンと共に前に突っ込んでいく。

「ロキ。どちらがたくさん戦闘不能に出来るのか勝負しませんか?」

「お、良いね! 掛けるものは?」

「勝った方が一日ソフィアを自由に出来る、と言うのはどう?」

「ふっ……その掛け乗ったぁ!!」

「なっ!!」
 
二人の会話が聞こえてきて、勝手に私の許可なく賭けが成立してしまい、どうしようと思いながら私はアレスの顔を見上げる。

「う〜ん……出来ればカレンに勝ってもらいたいな」

「アレス!」
 
そんなこと言っている場合じゃないってば! 二人だけに任せるわけにはいかないよ! 

そう思いながら心配して二人を見た時、目の前の光景に私は目を丸くした。

焔の翼(フレイムエール)!」

氷の薔薇(グラースローゼ)!」
 
フィアとロキの魔法で、四五十人近くいる兎人族たちは次々と倒れていく。

「す、すごい……」
 
これが氷結の魔道士と業火の魔道士の力……。

「ソフィア! 感心している場合じゃないわよ!」

「えっ?」
 
テトの呼びかけで後ろを振り返った時、数人の兎人族たちが私たちに襲い掛かってきた。