そんなみんなのやり取りを見て私は軽く微笑した。

「ソフィア?」

「ちょっと楽しいな、って思っただけ」
 
まさか自分がこうしてみんなと楽しく、汽車に乗る日が来るなんて、一ヶ月前の私だったら絶対に考えられなかったことだ。
 
これもアレスのおかげだ。

アレスのおかげで二人と知り合う事も出来たし、テトにも使い魔の友達も出来た。

……まあ、テトは友達だとは思っていないみたいだけど。
 
でも私はこの先もずっと、この繋がりは大切にしていきたいと思った。

みんなと一緒にいろんなところに行って、楽しい時間を共有しあって、たくさんの思い出を作りたい。
 
そんな事をふと考えていた時、アレスの優しい手のひらが頭の上へと置かれた。

それに気がついた私は、顔を上げてアレスの顔を瞳に映す。

「アレス?」
 
アレスはただニコニコと優しく微笑んでいて、そんな彼を見て私は首を傾げた。

「あああああ! アレス! 俺のソフィアちゃんに何してんだよ!」
 
その言葉にパッと手を離したアレスは、ロキへ視線を戻すと目を細めて問いかける。

「いったい誰がいつお前の物になったって?」

「いや……それは……」
 
アレスの顔を見てロキは怯えるように顔を青くした。
 
本当にロキはコロコロ表情が変わるんだな。これは見ていて飽きないけど、疲れないのだろうかと思ってしまう。

「ソフィア。体の方は大丈夫かしら?」
 
さっきまで私の腕の中で眠っていたテトは起きると、大きく伸びをした後にそう聞いてくる。

「うん、今のところは大丈夫だよ」
 
そう言って私は胸元に手を置いた。

そんな私の姿を見たテトは、目を細めた後に【なら、良いわ】とだけ言って、再び寝に入ってしまった。
 
まだ……あの傷は消えない。
 
あの時サルワによって彫られた魔法陣は、一ヶ月経った今でもきっくりと残ってしまっている。

治癒魔法を施しても、決して消えることはなく残ってしまっているこの魔法陣は、見るだけでもあの時の光景を脳裏に過ぎらせた。
 
自分の体に知らない人たちの魔力が注ぎ込まれ、自分が自分ではなくなってしまうと思ったあの記憶は、たまに夢でも見てしまう程に、私にとってはトラウマと化してしまった。

「……っ」
 
あんな思いは二度としたくない。自分が自分でなくなるのなんて……そんなの嫌だ。
 
そう、この傷はいずれ消えるものだ。

消えさえすればあの記憶を思い出す事もない。

そう、きっと……。