「ありがとう、アレス」
 
私の言葉を聞き取ったアレスは、少し照れくさそうに目を逸らすと赤くなった頬をポリポリとかく。

「き、聞きたかった事は以上だ。あとは、何かあったら呼んでくれ」

「うん」
 
アレスは私に背を向けると部屋から出て行こうとする。

しかし直ぐに何かを思い出したのか、半分振り返った状態でアレスは口を開いた。

「一つ言い忘れてた。ソフィア、二日後の夜は空けといてくれ」

「……どうして?」
 
首を傾げる私にアレスは【仕事だ】とだけ言うと、なんの説明もないまま足早に部屋から出て行ってしまった。
 
それが一瞬の出来事で私は呆然と目を瞬かせた。そして後から沸々と怒りが込み上げてきて体を小さく震わせながら。

「仕事っていったい何のよ!」
 
そう力強く私は部屋の中で叫んだのだった。

✩ ✩ ✩

そして二日後の夜――

夜空に満天の星が広がる中、私は胸の前で腕を組みながら、テトと一緒に学校の校門前に来ている。

昨日の夜にムニン伝いで集合時間を言い渡され、十分前行動が基本な私は誰よりも早くここに来て、アレスを待っているところなのだが……。

「遅い……」
 
集合時間になってもアレスが来る様子が見られず、私はイライラを募らせながら真っ直ぐ前を見据えていた。
 
時間を指定してきたのはアレスなのに、その時間からはとっくに三十分が経過している。

目を細めてじっと真っ直ぐアレスが来る方向を見ているけど、人影が動く様子も、誰かがこちらに歩いて来る姿も見られずにいた。

「アレスたち来ないわね。どうしたのかしら?」
 
テトは私の右肩に乗って呑気に毛繕いをしている。

そんな中、左右に揺れている尻尾がペチペチと頬に当たるものだから、私は何とか怒りを抑えつつ。