ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

✭ ✭ ✭

「来たか」

「はい、来たのですよ」
 
村で宴が行われている中、俺はサファイアとエクレール、そしてレーツェルを呼んで守護者だけで話す場を設けた。

「久しぶりだな、サファイア」

「そうだな。あの戦い以来か」
 
その言葉に俺はレーツェルと顔を見合わせて顔に影を落とす。

そんな俺たちに目を配ったエクレールは、両手を合わせるとニッコリ笑って言う。

「ではまず、情報共有と行くのです。わたくしが眠っている間に、いったい何が起こったのか、詳しく話をお聞かせ下さい」

「ああ、話すよ。まず――」
 
そこで俺はエクレールにこの三百年で起こった出来事をきめ細かく説明した。

オフィーリアと呼ばれるブラッドが愛したこの世界のエアの存在を。

そして星の涙がもうこの世に存在しないこと。そして残りの魔剣の行方などを。

「なるほどなのです。まさかクリエイトがそんな事を……」

「でもあいつは、あの戦いで行方を眩ませている。ブラッドでも今は探し出す事は出来ない」

「魔剣ライトニングと魔剣コスモスの行方は掴めているんですけど、リヴァイバルだけはどうしても分からないのです」
 
レーツェルの言葉に俺は確認を取るように、エクレールに問いかけた。

「エクレール。リヴァイバルの居場所は分かるのか?」
 
その問いかけに彼女は頭を左右に振った。

「申し訳ございません。わたくしでもリヴァイが何処に居るのかは、分からないのです」

「……そうか」
 
あとはリヴァイバルさえ見つかれば、ようやく守護者が全員揃う事が出来るんだ。

あと少しで、ブラッドだってオフィーリアに会えると言うのに!

「それで一つお尋ねしたいのですが」
 
エクレールはそう言うとニッコリと微笑んだ。
「ブラッドはソフィアちゃんを使って、いったい何をしようとしているんですか?」

「っ!」
 
その言葉に俺とレーツェルは目を丸くした。

驚いた、と言うよりも先に【やっぱり】と思った。彼女の感は鋭い。

どうやらエクレールの中では既に、ブラッドがソフィアの力を使って何かをするんじゃないかと思っているようだ。

「わたくしから見ても、彼は確かに【この世界のトト】様としての素質はあると思うのです。ですが、完璧に信じられるかどうかと聞かれれば、半分も満たない数値になるのです」
 
ニッコリと笑いながら淡々と言う彼女の姿に、俺の頬に汗が流れ落ちる。
 
今ここで彼女に俺たちがやろうとしている事について、知られるわけにはいかない。
 
すると俺の隣に居たレーツェルは一歩前に踏み出すと、そのままエクレールの前まで歩いて行く。

「レーツェル?」

「エクレール。確かにあなたから見たら、ブラッドはまだ信用するに値しない存在かもしれません。ですがここに居るアムール様、そしてサファイアとクリエイトはブラッドを信じているんです」
 
彼女の言葉にエクレールは目を瞬かせると、確認を取るようにサファイアへと視線を動かす。

その視線に気づいたサファイアも、組んでいた腕を解くと言う。

「レーツェルの言う通り、私もあいつを信じている。あいつなら守護者全員を集めて、エアと守護者の約束を果たしてくれると」

「……そう、なのですか。確かにアルやレーツェルちゃんが言うのであれば、わたくしも信じたいとは思うのです。しかし……」
 
エクレールは複雑な表情を浮かべると言う。

「……分かりました。一先ず、彼の事は信じる事にするのです」

「エクレール?」
 
エクレールはそう言って、村のある方へと戻り始める。

「彼を信じるにしても、信じないにしても、わたくしたちの願いは一緒です。早くみんなで集まって、約束を果たすのです」

「……ああ」
 
その言葉に頷くとなぜかエクレールは踵を返して、そのままレーツェルの側へと寄った。
「え、エクレール?」

「そう言えば、ちょっと気になったことがあるのです」

「気になったこと?」
 
いったい何だ? 

そう思って首を傾げた時、エクレールはレーツェルの左手の薬指に付けられている、金色の指輪を見下ろした。

そしてその指輪は俺の左手の薬指にも付いているのを確認すると、周りに花を飛ばしながらニッコリを微笑んだ。

「あらあら、まあまあ! お二人とも婚約なされたのですね!」

「……っ!!」

その彼女の言葉に俺たちは顔を真っ赤にした。

「どうして早く言ってくれないのです! もっと早く言ってくれれば、結婚の準備だってしたのですよ!」

「い、いや、それは別に良いんだ!」

「そ、そうです!」
 
た、確かに婚約したという意味で、レーツェルに俺から指輪は送った。

しかし結婚は……。

「あっ! それなら全員が揃ったら、結婚式をあげるのです!」

「えっ、ええ!」
 
そのあとエクレールはレーツェルにどんなドレスを着たいのか、どんな式場が良いのかなど、色々と質問していた。

そんな俺たちの様子を、サファイアは優しい表情を浮かべながら見守っていた。

「こうしては居られません! サファイアも早くコスモスさんに告白するのです!」

「その話しはもう良いだろ!」
 
守護者たちが全員集う日はそう遠くはない。
 
だからもう少しだけ待っていてくれ、トト。
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翌日――
 
俺たちはブラッドさんに呼ばれて、ザハラから部屋を借りて集まる事になった。

「私たちに話ってなんだろう?」

「さあね? でもとても興味を引く話だとは思うけど」

ソフィアはブラッドさんがこれから俺たちに話してくれる会話の詳細を知らない。

知っているのは俺とロキ、そしてムニンだけだ。

カレンも薄々気づいているようには見えるけど、彼女は昨日の夜からどこか様子が変だった。

宴の席に帰って来てもずっと黙ったままで、黙々と宴に出された食べ物を口にしていた。

そして今はどこか気まずそうに視線を下に投げている。

そんなカレンを横目で見ながら、俺たちはある扉の前に立った。

扉を奥へ押すと中には既に、ブラッドさんたち三人が揃っていた。

ブラッドさんは部屋の真ん中に立ちながら、腕を組んで俺たちが来るのを待っているようだった。
 
そんな彼の隣には、アムールとレーツェルさんも立っている。

「ようやく来たか」
 
そう言ってブラッドさんは組んでいた腕を解く。

「それじゃあ、今からお前たちに話すよ」
 
その言葉に俺は息を飲んだ。
 
そして俺たちは知らない。

あの大事件が起きるまで、ブラッドさんが俺たちを集めた本当の理由と、彼自身の野望のことを――
レーツェルさんに座るように促された俺たちは、それぞれ席に付いてブラッドさんへと視線を送った。

テトはソフィアの膝の上に、そしてムニンは俺の右肩の上に乗っかっている。
 
カレンはブラッドさんから少し離れた位置の椅子に座り、そんな彼女の隣にはロキが座る。
 
人間の姿へと戻ったサファイアさんとエクレールさんは、ブラッドさんの側へと寄った。

「それじゃあ、まず何から聞きたい?」
 
最初に口を開いたのはブラッドさんで、俺たちにそう質問を投げ掛けた。

その言葉に俺とソフィアは顔を合わせる。そして俺は口を開いた。

「ブラッドさんが知っている全てについて、俺たちは知りたいです」
 
俺の言葉にブラッドさんは軽く目を見張ると微笑した。

しかし直ぐに真剣な表情を浮かべると、直ぐ後ろに居る魔剣の四人に目を配った。

「じゃあまず、魔剣のことから話そうか。お前たちも知っていると思うけど、魔剣とはエアの恩恵を受けた存在として、エアが戦争を終わらせたと同時にこの世に落とされた存在たちだ」
 
ブラッドさんの言う通り、魔剣はそういう存在だ。

しかし魔剣が人間になれるなんてことは、きっと誰も知らないのだろう。

でもどうして人が魔剣の姿になれるんだ?

「しかし……その言い伝えが間違いだと言ったら、お前たちはどうする?」
 
その言葉に俺たちは目を見張った。

言い伝えが間違いって、どういう意味なんだ?

「確かに魔剣はエアが戦争を終わらせた後に、この世界に落とされた。その点に関しては間違っていないんだけど、エアが戦争を終わらせたと言う話の部分が、俺が知っている話とは大分違ってな」

「あら、どう違うって言うのかしら? もしかして戦争を終わらせたって言うのが、エア本人じゃないとでも言うのかしら?」
テトの言葉にブラッドさんは鋭く左目を細めた。

「戦争を終わらせたのは【エアとトト、そして守護者たち】だ。彼女が一人で成し遂げたものじゃない。そんなこと、あの女が一人で出来るはずがないからな」
 
【あの女】と言う言葉に、テトは目を鋭く細めた。

「その口振りだとあなたはそのエア本人に会ったことがある、って言っているように思えるんだけど? エアは知恵の女神として、私たちに魔法を言うものを与えてくれた。だから彼女の存在は、この世界の人たちにとって偉大な存在。尊敬するに値する存在なのよ? それだと言うのに、あなたはまるでエアの事を嫌っているようね」

「ああ、嫌いだな」
 
ブラッドさんはテトの言葉にそうきっぱりと言い捨てた。

その姿にさすがのテトでも驚いたのか目を見張った。

そしてブラッドさんの側に居るエクレールさんも、驚いて目を丸くしている。

「……話を戻そうか」
 
ブラッドさんは軽く息を吐くと再び話し始める。

「魔剣は確かにエアの恩恵を受けている。当然、その力は個々によって違うものだ。例えばエクレールだったら、黒い粒子を浄化する力を持っていることだ。これはエクレール以外の者は誰も出来ない」
 
エクレールさんからサファイアさんへと、視線を動かしたブラッドさんは言葉を続けていく。

「サファイアだったらサファイア特有の魔力である、氷結の力を使うことが出来ることだ。しかしサファイアの主になるには、ちょっとした条件があってな」

「条件?」

「サファイアは氷国のお姫様なんだ。氷国は名の通りとても寒い国なんだけど、サファイアの氷結の力を操ることが出来るのはその氷国出身の者か、サファイアと同じ王家出身の者だけなんだ。じゃないと、氷結の力を上手く操ることが出来ない。サファイアを我が物にしようとしてきた連中は、氷結の力によって氷の中に閉じ込められて凍死させられる」
 
その話を聞いて背中に寒いものを感じ、やっぱりあの噂は本当だったんだなと思わされた。

じゃあもしかしてカレンは……。
「カレンはサファイアと同じ、王家の血を引いていた。だからカレンはサファイアの主になることが出来たんだ」
 
ブラッドさんの言葉にカレンは目を瞬かせた。まさかカレンも知らなかったのか?

「私がサファイアと同じ……王家の者ですか?」

「そうだ、カレン。だからお前は私にとっては、ようやく出来た主なんだ」

「サファイア……」
 
じゃあサファイアにとってカレンは、唯一無二の存在ってことになるのか。

でもブラッドさんは何でそんな事が分かったのだろう?

カレンでも知らない事をブラッドさんは知っていた。

もしかしてサファイアの主としてカレンを選んだもの彼自身なのだろうか?

「そしてアムールの力は、愛した人を思えば思うほど魔力を増していく能力だ」

「愛した人を思えば思うほど?」
 
そのブラッドさんの言葉にカレンの肩が上がったのが見えた。

その様子に首を傾げた時、ブラッドさんは言葉を続ける。

「そんなアムールの隣に居る彼女、レーツェルは神秘の力を用いてありとあらゆる魔法を無効、または防ぐことが出来るんだ」

「あ、ありとあらゆる魔法?!」
 
ロキは驚いて声を上げた。

その言葉に驚いたのは当然ロキだけじゃない。俺の隣に居るソフィアも、俺だって驚いて目を丸くした。

「と言いましても、全ての魔法を防げるわけではありませんよ。私の力を扱える人物は一握りだけです。私の力の源は【人を信じる心】ですから、信じる気持ちが強ければ強いほど、私の力は強さを増していきます。しかし逆に人を信じる心を失ってしまえば、私の力を使う事は出来ません」

「それにレーツェルは、闇魔法も浄化することが出来るし、暴食の悪魔のような存在だって斬る事が出来る」

「っ!」

その言葉に俺の中であの時の光景が過った。

それはブラッドさんがレーツェルさんを使って、容赦なくヨルンを斬り捨てた姿だった。
 
あの時ブラッドさんは、レーツェルさんの力を使って暴食の悪魔を斬り捨てたんだ。
「このように魔剣は、それぞれ特別な力をエアから与えられ、その力を使いこなせる主を待っている。そして魔剣の主となった者を、俺たちは【守護者】と呼んでいる」

「……守護者」
 
じゃあ俺もエクレールさんに選ばれたから【守護者】って言う立ち位置になるのか。 

でも守護者って具体的にはどういう存在なんだ?

「あの、すみません」

「ん?」
 
するとロキが突然、恐る恐る右手を上げた。

そしてブラッドさんに確認を取るように尋ねた。

「今更なんですけど、その話って俺が聞いても良いものなんですか? 俺はカレンとアレスみたいに魔剣を持っているわけでもないし、守護者なんていう大層な存在でもないから」

「ああ、別に構わないよ。それに君だってもしかしたら、魔剣に選ばれる可能性だってあるかもしれないんだ。だからここに居て話を聞いてもらった方が、後々話すよりも時間を省ける」

「そ、そうですか……」
 
ロキは安心して軽く息を吐く。その様子をブラッドさんは見届けると口を開く。

「守護者と言うのは、アムールやレーツェルたちが生前の頃に、エアを守る存在として呼ばれた名前なんだ。だから俺はそれを引き継いで、魔剣を持った者を守護者として呼ぶようにしている」

「あ、あの……【生前の頃】って、どういう意味ですか?」
 
ソフィアの質問にブラッドさんは四人に目を配った。

それに気がついた四人はためらうことなく頷いた。

それを確認したブラッドさんは再び口を開く。

「アムールたちは魔剣の姿になる前は、一人の人間としてこの世に存在していたんだ」

「っ!」

一人の人間としてこの世に存在していたって……、それじゃあエクレールさんたちも元は生きていた人たち?!
「魔剣になる条件って言うのが、どうやら【死ぬこと】らしくてな。だからエアの守護者たちは全員死んでいる。しかしエアは彼らの魂を魔力としてそれぞれの剣に込めたんだ。だから魔力(魂)を持った剣――魔剣と呼ばれるようになった。でもこの世界の奴らは、そんなこと知っているわけでもない。だから魔剣とは特殊な魔力を持った剣だと、ほとんどの人がそう認識しているだろう」
 
確かにブラッドさんの言う通り、俺も魔剣は強い魔力を持っている剣だとそう認識していた。

魔法書にも【特別な魔力を持った特殊な剣】と記されているのを見たことがあった。

でもその正体が【エアの守護者たちの魂が込められた剣】だと、そう記された魔法書を見たことがないし、人から聞いたこともなかった。

知らなかったと言うよりも、誰も知り得ない事だと言った方が良いのかもしれない。

「ふ〜ん、なるほどね。それじゃあ、私から一つ質問をしても良いかしら?」
 
テトは机の上に飛び乗ると、尻尾を左右に揺らしながらブラッドさんに問いかけた。

「あなたはその魔剣と守護者たちを集めて、何をしようとしているのかしら?」

「……」
 
その質問にブラッドさんは目を細めると言う。

「エアと守護者たちが交わした約束を果たすために」

「約束?」

ブラッドさんの言葉にカレンを除く俺たちは首を傾げた。

「エアと守護者たちは生前、この世界を作る前にある約束をしたんだ。約束がどういう物なのかは、守護者と魔剣が全員集まらないと分からない。その約束を果たすためにも、守護者たちは一刻も早く集まらなければならない。だから俺は魔剣と守護者たちの行方を追っているんだ」

「……この世界?」

テトは【この世界】と言う言葉に目を細めた。その様子を見ながらブラッドさんは言葉を続ける。

「お前たちは、エアが戦争を終わらせた話をどこまで知っている?」

「大体の事は知っています。九種族戦争を終わらせたエアは、魔法と言うものを生み出し、そしてその知識をトトがみんなに広めてくれたと」

「そう、俺たちが知っている話ではそこまでは。しかし、その話にはいくつか省略されている部分が多々ある」

「えっ?」