「ただ優しく名前を呼んであげただけなのに、顔を真っ赤にして目を逸しちゃうなんて、お子ちゃまも良いところよ」

「な、なんだと!」
 
テトは俺に背を向けると、そのまま尻尾をゆらゆら揺らしながら遠ざかって行く。

「お、おい! 待てよ、テト!」
 
小さい狼の姿に戻った僕も、そのまま慌ててテトの後を追った。
 
テトの言う通り、僕はお子ちゃまかもしれない。
 
でも誰だってあんな声で名前を呼ばれたら、びっくりするし体だって熱くなる。

「ああ……くそ」
 
このままやられっぱなしは癪に障る。

きっといつか僕だって、テトの事をドキッとさせて見せるさ!
 
そんな事を密かに誓いながら、僕は最後に夜空に浮かぶ月を見上げたのだった。

✭ ✭ ✭

「……」
 
先生と別れた私は先に村に向かって森の中を歩いていた。
 
私は宴が行われている中で、先生の姿がない事に直ぐに気づいた。

だから先生の行きそうな場所を巡って、彼の姿を探した。
 
そしてついさっき、岬の先で一人座りながら、月明かりに照らされる海を眺めている先生の後ろ姿を見つけた。
 
先生を見つけられて、これからの事について話を聞こうと思った時だった。

「お前に会いたい……よ。オフィーリア」

「っ!」
 
その言葉に私の心臓が大きく跳ねた。

【オフィーリア】。

まさかその名前の人が、先生が言っていた【彼女】と言う人なのだろうか? 

そう思った時、私は先生に声を掛けていた。
 
先生は私の声にビクッと肩を上げると、泣いていたのか涙を拭うと何もなかったようにこちらを振り返った。

そんな先生の姿に私は胸が締め付けられた。
 
だから私は知りたかった。

先生の言う【彼女】とはどんな人だったのか。

そしてなぜ、先生は彼女のために頑張っているのか、先生にとって彼女と言う人は……どんな存在だったのか、と。
 
そして先生からオフィーリアについて私は聞かされた。