「あら、こんなところに居たのね」

「……テト?」
 
すると僕の隣にテトがちょこんと座った。

そんな彼女の姿を横目で見ながら、僕は月へと目を戻した。
 
どうしてテトはここに来たんだ? 今は村で宴が行われているはずなのに。

「あなたっていつも一人で考えたい時は、こうして高いところに登って月を見上げていたわね。だからきっと、ここに居るだろうと思ったのよ」

「……そうかな?」
 
僕が月を見上げながら考え事をするのはきっと、母上が僕に言ってくれた言葉が影響していると思う。

月を見ていると心が落ち着くし考えもまとまるから、だから僕は一人で考えたい時は、時々こうして月を見上げている。
 
テトはそれを知っている仲の一人だ。

「こうして月を見ていると、本当にあなたの瞳のように温かい光を放っていると思うわね」
 
その言葉に僕はテトへと目を映す。そして気になっていた事を問いかけた。

「テトは知っていたのか? 僕に月の精霊が付いているって」

「さあね。でも初めてあなたと会った時は、凄く特別な子だとは思ったわよ」

「……っ」
 
やっぱり彼女は知っていたのだろう。

僕に月の精霊が付いていることに。でも彼女はそれをあえて僕に言わなかった。

それは僕を思っての事なのか、それとも……。

「ま、とりあえず私から今のあなたに言える事は、潔くお父さんに会いに行くことだけね」

「……どんな顔をして会いに行けば良いって言うんだよ? 僕は親父の言葉からじゃなくて、他人の口から色んなことを知ってしまった。それが良かったのか……それを知ってしまったから、会いに行くことで何かが変わるのか……分からなくて」

「別にそんな深く考えることもないんじゃないかしら?」

「えっ……」
 
彼女はそう言うと元の人間の姿へと変わり、手のひらに僕の体をすくい上げた。

月明かりのよって彼女の金髪が照らされ、黄金の瞳に僕の姿が映る。