俺は怒りの感情込めて力強く彼女の名前を呼んだ。

その声にカレンの肩がビクッと上がる。

「自分の命を捨てるような事は許さない。サファイアにとってお前は、ようやく出来た唯一無二の存在なんだ。彼女のためにも、そんな事を言うな!」

「……っ」
 
カレンは目をギュッと瞑ると顔を伏せた。そんな彼女の頭に俺は手を乗せて優しく髪を撫でる。

「……先生?」

「俺はお前が死んだら……悲しいぞ」
 
その言葉にカレンは涙をボロボロと零した。

「サファイアのためにも、俺のためにも命は大切にしてくれ」

「……はい!」
 
そう……出来ることなら、カレンにはこのまま生きて幸せになって欲しいんだ。

それにカレンには後に、辛い選択をさせることになる。
 
彼女がどちらの選択をしても、俺はそれを受け入れるつもりだ。
 
俺は声を押し殺して泣く彼女を、優しく見つめながら泣き止むまで側に居た。
 
そして彼女が村に帰って行くのを見届けた俺は、再び海へと視線を動かした。

「お前が死んだら……悲しいぞ、か。まったく……」
 
人のこと言えないくせにな。
 
そんなことを思い俺も村へ戻ろうとしたて、岬に背を向けた時だった。

「ブラッド」

「……っ」
 
その声を聞いた瞬間、心臓が大きく跳ねる。

心臓の心拍数も上がっていき、体が徐々に熱くなっていくなか、俺はゆっくりと後ろを振り返った。

そしてそこには――

「……あれ?」
 
誰の存在もなかった。
 
一瞬だけ、彼女がそこに立っている気がしたんだけど、どうやら気のせいだったようだ。

「……そうだよな。そんな都合よく、お前が居るはずないもんな」
 
そう吐き捨てるように言い、俺は村へ向かって歩き出した。
 
そんな俺の後ろ姿を、彼女が涙を流しながら見ていると知らずに。