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腕の中で安心した顔で意識を失ったカレンを見下ろしながら、俺はサファイアに目を向けた。

「サファイア……カレンに氷結の力を使わせたのか？」

「……ああ」
　
その言葉に左目を細めて、俺は凍りついている辺りの森を見渡した。

そしてもう一度、大切な弟子に目を向けた後、彼女の体をそっと地面へと寝かせた。

「サファイア。前にも言ったはずだ。カレンにはまだお前の力を扱う事が出来ないと」

「……ああ、分かっているさ。しかし、今回はどうしてもこの力を使ってもらう必要があった」

「その力がカレンの命を削ると知っていてもか？」

「……っ」
　
俺の言葉に彼女は黙り込んで目を逸した。
　
サファイアの中に眠っている氷結の力は、サファイア特有の魔力であり、非常に強力な力を秘めている。

その力を持って生まれたサファイアも、最初の頃はその力を上手く使いこなす事が出来ず、そして周りの人々から【化物】と呼ばれ、忌み嫌われ存在すら否定された。

そんな彼女に手を差し伸べた唯一の存在がエアだった。
　
氷結の力はサファイアの命を削るもので、生前サファイアはその力をエアたちの為に使い死んだと言われる。
　
その力は魔剣となってからも働いているようで、俺はサファイアの主であるカレンにその力を使ってほしくなかった。
　
彼女はたった一人の大切な弟子であり、サファイアにとっても唯一無二の存在なんだ。

本当は……この件にも巻き込みたくなかった。

「先生！」
　
俺の為に必死に頑張ろうとしてくれて、ずっと側で彼女の成長を見守って上げたかったが、俺には俺のやるべき事がある。

だから……中途半端な教えだけを残して、俺はカレンの側を離れてしまった。

「サファイア。氷結の力はあと何回使えるんだ？」

「……カレンの体が保ったとしても二回くらいだ」

「……そうか」
　
俺は気を失っている彼女の髪をそっと撫でる。

「【レーツェル】。サファイアの体を見てやってくれ」

『分かりました』
　
その呼びかけに俺の腰に刺さっていた二本の内の一本が、金色の光を放つとサファイアと同じ、元の人間の姿へと戻った。

「……カレンの事も頼む」

「お任せ下さい。お二人は早く行って下さい」
　
レーツェルの言葉に軽く頷き、俺は右手の中にある一本の剣を見下ろした。

「お前……それは！」

「ようやく見つけたんだ」
　
これでまた一つ彼女との約束を果たす事が出来た。後はこの剣を【彼】に託すだけだ。