「姉上。とりあえず今は、民を遺跡へと移動させましょう。俺たち竜騎士が援護しますので、姉上もどうかご一緒に」

「……リュシオル」

「それに……姉上に一つご報告しなければならない事があります」
 
リュシオルはそう言うと剣を鞘へ戻す。

「東の森が黒くなり始めていたのは、こちらへ向かっている時に気づきました。空の上から様子も見ていました。その時に、俺は見ました」

「見た? ……見たって何を?」

「……黒い森の中にヨルンの姿があったのです」

「っ!」
 
リュシオルの言葉に私は目を見張った。
 
どうして黒い森の中にヨルンが?!

ヨルンは私よりも先に竜騎士たちを率いて、村に向かったはずだ。

しかし今この村には、彼の姿が見当たらない。引き継いれて行ったはずの竜騎士たちの姿も見当たらない。

「姉上。あの男はどこか変です!」

「変……って、彼はずっと私をサポートしてくれた人です。きっと黒い森の中に居たのだって、様子を見に行っていたから!」

「姉上……」
 
違う……絶対に違う! 

今回の事件を引き起こした犯人が、ヨルンのはずがない!

だって彼はずっと私の隣で付き人として居てくれた。

ずっと私を支えてくれて、竜人族の悲願が果たされる事を誰よりも願いっていた人だ。
 
だから……ヨルンのはずが。

「エーデル……」
 
私は……どうすれば良いのですか?

「姉上! しっかりして下さい!」

「っ!」

リュシオルに両腕を捕まれた時、弟の真っ直ぐで力強い瞳が私に向けられた。

その姿に私は目を見張る。

「姉上が今すべき事はなんですか! エーデルばかりに甘えないで下さい!」

「リュシオル……」

「エーデルは今居ないんです! 姉上がしっかりしなくて、誰が民を守ると言うんですか!」
 
その言葉に私は目を丸くした。

「ザハラ。民たちをお願いしますね」

その時ふと、頭の中にエーデルの声が聞こえた気がした。

……リュシオルの言う通りだ。

いつまでも、エーデルに甘えているわけには行きません。

彼女が託してくれた民を、私が守らなければな!

「……リュシオル。私が今すべき事は……民を守ることです」

「そうです……姉上。あなたはこの民の巫女なのですから」
 
その言葉に私は軽く笑い、民たちへと目を向けた。

「これからみなさんを、エーデルが居た遺跡へと移動させます! リュシオル……竜騎士の方々も援護してくれますので、どうか移動をお願いします!」
 
ヨルンがどうして黒い森に居たのかは分からない。しかしそれを問い詰めるのは後です。
 
今は自分がすべき事を果たすのだ。