「アレス、逃げるなら今だ! せっかくカレンが作ってくれた時間を、無駄にするわけにはいかない!」

「……ああ!」
 
俺は腕の中を気を失っているムニンを見下ろす。

「待ってろ、ムニン。必ずなんとかしてやるから!」
 
そう言ってその場から離れようとした時だった。

「っ!」
 
こちらに何か向かってきている魔力を感じとった俺は、直ぐにロキの前に立った。

「アレス?」

「光の精霊よ、その力をもって我らを守りたまえ、神の守り!」
 
神の守りを張った瞬間、俺たちに向かって闇の波動が飛んできた。

「なっ!」
 
闇の波動は神の守りに勢い良くぶつかると、そのまま辺りに飛び散って消えてしまった。

「な……なんだよ、今の?」

「……闇魔法!」
 
すると森の奥でこちらに向かって歩いて来る一人の人影が見えた。

「あ〜あ。せっかく上手くいっていたのに、まさかここでサファイアに認められるなんて、思ってもいませんでしたよ」
 
その姿に俺たちは目を見張った。

「お、お前は!」

「ま、どうせこの氷も長く保たないですよ。そんな直ぐにサファイアの魔力を、あの人が簡単に操れるはずがないですからね」
 
太陽の光によって輝く橙色の髪に、嫌らしく細められる紅い瞳。肌に見える青緑色の鱗に、後ろに見える竜の翼と尻尾。
 
俺は怒りで体を震わせながら、その者の名前を呼んだ。

「ヨルン!!!」
 
俺に名前を呼ばれたヨルンは、手のひらに黒い玉を作ると紅い瞳を輝かせた。

「は〜あ〜い〜」