「俺が……大きくなって、お前たちを……逃がす」

「逃がすって……そんな体じゃ無理だ！」
　
ムニンの右腕は既に真っ黒に染まり上がっていた。

思っていたより侵食が早く、このままだとムニンの命が危ない！　魔力を全て吸い取られてしまう！

「俺の……ことは、気にするな。たった……一瞬だ」
　
そう言いながらムニンは立ち上がろうとする。しかし直ぐに体は大きく揺れると、前へと倒れ込んだ。

「ムニン！」
　
元の姿に戻ったムニンを両手でキャッチする。

「やっぱり無理だムニン！　ここは俺たちで何とかするから、お前は休んでてくれ」

「はあ……はあ……」
　
ムニンは息を荒くしながら小さく頷いた後に、目をギュッと閉じた。

「と言ってもアレスさんよ。何か考えでもあるのか？」

「……っ」
　
その問いかけに俺は悔しい表情を浮かべた。ロキはそんな俺の顔を見て苦笑した。
　
さすがに、今回はここを突破出来る手段がなかった。
　
魔法を使って通り道を作ったとしても、この黒い粒子は魔法を簡単に飲み込んでしまう。

この数じゃ魔法を放ったところで二秒も保たない。

「どうする……どうすれば！」
　
その時、俺たちの周りに冷気が流れ込んできた。

「さ、さむっ！」

「……冷気？」
　
黒い粒子たちも冷気を感じ取ると、辺りに目を配り始めた。そして俺は目の前の光景に目を瞬かせた。
　
黒い粒子たちが辺りに流れ込んできている冷気に耐えられなかったのか、徐々に凍りついていくとその場に次々と落下していく。

「な、何が起こっているんだ？」
　
こちらへ流れ込んできていた冷気は辺りを凍らせ始めると、それは俺たちの後ろまで迫ってきていた黒い森までもを、丸ごと全て氷の中に閉じ込めてしまった。
　
その光景に目を丸くした俺たちだったが、ロキは何か思うところがあったのか、直ぐに嬉しそうに笑顔を浮かべた。

「カレンだ……きっとカレンだ！」

「カレン？」

「遂にやったんだ！　とうとうサファイアに認められたんだ！　きっとそうだ！」
　
魔剣サファイアに認められた……。

じゃあこの氷はまさか、サファイアの魔力？　

そう思って俺は氷漬けにされている黒い粒子たちを見下ろした。