「出ないの?」
「――え?」
「それ、電話でしょ?」
「あ、いや…ほら…新幹線内だし…」
「ふーん?」
「あ、ほら切れた。」
「や、だから良いのか?って」
「だから!新幹せ」
夏波が話し終わる前に再び携帯が震え始めた。

電話に出なければ、きっとこの携帯は自分を呼び続けるだろう。
そう分かっていても、とても電話に出る気分ではなかった。


「出れば?」
「え…」
「だって緊急事態かもしれないじゃん?」
「………。」

無理にきまってる。
今、この電話に出たら自分が何を言いだすか分からなかった。
愛人特有の嫉妬なんて曝け出すつもりはない。
夏波は電話に出ないことを黙り込むことで態度に現した。


それでも尚、震えている携帯に嫌気が差し、鞄に仕舞い込もうとした手を掴まれ、男は夏波から携帯を取り上げた。


「ちょっ…!!」
『もしもし?夏波??メール見たか?今どこ?』
「……あの…緊急事態ですか?」
夏波は唖然としていた。
男は取り上げた携帯を自分の耳に当て、あろうことか会話をしている。
(なんで…なんで出てるのこの人!!)
『きみ…誰?』
「や…誰とは言えないんですけど…。今、なつはの隣に座ってる者です」
恭平の声までは聞こえてこないものの、話の流れが良からぬ方向へ向かっているのが分かった。
夏波は慌てて男から携帯を取り戻し終話ボタンを押した。

「あっ…あなた!何考えてるの?!」
「だって出ねーんだもん電話。お前がムシすっからだろー?あ、緊急事態では無かったっぽいよ?彼氏ー??」
悪びれた様子もなく、淡々と男は応えた。