5月。新しい制服にも慣れて、少し気だるくなる。私、長谷川ひよりもそのひとりだと思う。

桜丘高校に入学して1ヶ月。私は教室の窓から校庭を眺めていた。この高校には同じ中学から来ている人が多く、人見知りの塊のような私でも、なんとか友達を作ることが出来た。というか、中学からの友達がいてくれたおかげで友達を増やすことが出来たので、もしいなかったらと考えると...怖いからやめておこう。

「ひより!ちょっとそこどいて!」と元気な声で考え事から現世に引き戻された。
青井茜ちゃん。私の幼馴染みで、この子のおかげで高校に馴染めたと言っても過言じゃない。
明るい性格のムードメーカーで、面白くてスポーツ出来て...なんで仲がいいんだろうね、私と正反対じゃん。ちょっと僻みつつ、
「どうしたの?」
と聞くと、茜ちゃんはすごい勢いで、
「窓からサッカー部の池田先輩が見える!」
と答えた。
誰だろうと首をひねると、そばにいた江崎かおりちゃんが、
「茜、ひよりはそういうの興味無いでしょ」
と苦笑いしていた。
「高二の先輩で、すごいカッコいいんだから!サッカー部はね、あの先輩のおかげでマネージャー希望が多いんだって!」
と茜ちゃんがまくし立てた。そういえば、この間お弁当を食べながらそんな話が出たような。
「王子様だよね、サッカー部の」
とかおりちゃん。

王子様、か。小さい頃読んだ絵本を思い出す。かっこよくて、強くて、優しくて。真実の愛で自分を見つけ出してくれる人。お母さんがまだ元気だった頃、「いつかひよりにも現れるから、その時を楽しみにしてるわね」って言ってたっけ。現れる前にお母さんは亡くなったけど。いつか現れてくれるのかな。
「ひーよーりー」茜ちゃんがまた私を呼び戻す。
「大丈夫?最近ぼーっとしすぎじゃない?」とかおりちゃん。
大丈夫だよ、と返してそろそろ帰るねと支度を始める。今日の夕飯も作らなきゃいけないし。二人はまた、池田先輩の話を始めた。池田先輩は二人の王子様なんだろうな。

私の王子様は、いつ現れるんだろう?