「実紅~!何やってんの?早く行くよ~!」

「あ……」


すっかり止まっていた私の中の時間が、遠くから聞こえてきた親友の声で再び流れ出す。


「ミ……ク……?」


不意に彼の口から零れ落ちた私の名に、ドキンと鼓動が跳ね上がる。


それと呼応するかのように、私の腕をつかんでいる彼の手に一段と強い力が加わった。


「っつ!」


あまりの力強さに、おもわず痛みをこらえる声が漏れてしまった。


「っ! すみません」


私の声にハッと我に返ったのか、慌てて私から離れる彼。


普通ならばホッとする場面だけれど……。


私から彼の手が離れてしまったことが、なぜだかものすごく寂しくて。



初対面の人にこんなこと思うなんて、私ってばどうしちゃったの?



自分でも理解できない感情に戸惑っていると


「実紅ってば~!!」


再び私を呼ぶ親友の声が、混雑している街中に響き渡った。