「ごきげんよう。日比野、今日もがんばっとるな」


「監督、おはようございます」
 

すると、遠山監督がグラウンドに出てきていた。
 
ああおはよう、と言うと監督はグローブをはめ、ゴールの前に立った。



「一発蹴ってみい」


「えっ」

 
僕は驚いた。監督は、僕にシュートを打つように言っている。


彼はもう五十歳をすぎているし、

選手にシュートを打たせて自分はキーパーをするなんて姿は見たことがない。


「大丈夫や。いいから、はようせい」
 
監督は僕が心配していることを察したのだろう。


そう言うと、構えをとった。



「では、いきます」
 
やるからには本気でやらなければと思い、シュートをした。
 

足がボールにヒットした瞬間、ドン、と自分でも聞いたことのないくらい大きく太 い音が響いた。しかし、そのコースは監督の目の前。


監督はそれを難なくはじいた。


「……いいシュートや。

お前、あんまり打たへんからわからんかったけど、重い球蹴られるようになったんやな。
自信持てよ。
ディフェンダーゆうてもいつ何時チャンスが巡ってくるかわからんからな」
 
少しぶっきらぼうだけど、しみじみと監督は言った。


「……はい!」
 
自覚はなかったが、練習を積み重ねていくうちに自分にも成長しているところがあるんだと思い、嬉しくなって返事をした。
 
監督は、かすかに笑ってグローブを外した。

そういえば監督は、こうやって早く来たり、学校に遅くまで残ったりして、僕ら選手の個人練習に付き合うことが多い。


でも、なぜ自らキーパーをしたのだろう?
 
僕は、その場を離れようとする監督を思わず呼び止めた。



「あの、監督。……監督は、なんのためにがんばってらっしゃるんですか」
 


それだけ選手に力を注げる、その原動力がなんなのかを知りたくなったのだ。僕は 唾を飲み込み、監督の反応を待った。