『ご指名ありがとうございまぁーす!』

私は、店舗型のヘルス、BabyDollに身を置いていた。

お風呂で体の洗いっこ。
ベッドでご奉仕。

激しい愛撫に応えて……
そしてフィニッシュ。

工場内でラインに立ってるみたいに同じ事の繰り返し。
そこにいれば、男達が勝手に流れてくる。

だだ違うのは、鉄のように固い掟だ。
それを、破ってしまえば、酷い仕打ちが待っている。

それが、工場とは少し違う。



『ねぇ、アユ。 よく送迎してくれた真吾くんわかる?』

待機室の鏡台前で、崩れたファンデを直す私に話し掛けたのは、同じくこの店で働く美香。

歳は2つ上の22歳。
でも入った時期があまり変わらない私達は仲が良く、呼び捨て合う程だ。

『彼さー、早苗連れて逃げようとしたらしいよ』

美香はそう言って、同じように鏡台の前に座る。

早苗は私達より少し前に入った店の女の子。

前から黒服の真吾くんとの関係が怪しまれていた。

『で? どうなったの?』

野次馬とは少し違う。

ただ知りたかった。
掟を破った者の末路を……

『詳しい事解んないけど、ヤバイ事になってるらしいよ』

『……そっか』

ここにいる人間は皆、オーナーの言いなり。
逆らえば命の保証もない。

今頃、真吾くんと早苗は、何を思っているんだろう。

命を賭けた逃避行に、ハッピーエンドは、待っているのだろうか。

二人を想うだけで、二の腕にブワッと鳥肌が現れた。