『あは、あはははは!』
幸成の声が遠い。
水に潜ったみたいに、鈍く伝わる。
『その顔、めちゃくちゃいい。 裏切られたとか思ってんすか?』
裏切られた?
違う。
そんな事、思ってない。
ただ、上手く考えがまとまらなくて……
聞きたい事も、言いたい事もいっぱいあるのに。
『あの人と初めて話した日から、ずっと連絡とってたんすよ?』
「気付かなかった?」
幸成はそう言って苦笑して見せる。
何よ。
何なのよ。
『私をからかって、何が楽しいのよ!?』
幸成も、十和も。
何が目的なのよ!
『からかってなんかいませんよ。 2人共がアユを好きになった。 それは間違いじゃないっすから』
急に真面目な顔すんなよ。
怒鳴れなくなるじゃん。
『ただ。 十和さんには、アユを幸せに出来ないよ』
グッと、手首を掴んでいた手に力が加わる。
強引さ、力強さ。
本気なんだって事、思い知らされる。
『幸せかどうかは、自分で決めるもの。 誰かに決められたくない』
でも、私だって本気だよ。
本気で、十和を愛してしまった。
『後で後悔しないでくださいね? あの人の「秘密」は、アユが思うよりずっと、大きなものっすよ』
あ……
幸成の手が緩んだ。
『後悔しない。 私は絶対に、十和を嫌いにはならないもの』
『……そうっすか。 ま、俺には関係ないですけどね』
ようやく私を解放した大きな手は、私の髪を撫で、そのまま包むように抱きしめた。
『ねぇ、俺が十和さんの秘密を教えてあげようか?』
『……なによ、急に。 教える気なんかないくせに』
いきなり優しくされたら、戸惑ってしまう。
腕を拒むタイミングも逃してしまった。
『別に? ただ、それでアユが俺の方に来るなら、教えるけどね』
ゆっくりと脈打つ幸成の心臓。
なんだ。
案外、心地よいじゃん。
こいつの腕ん中……
『でも、今は教えませんよ。 アユが俺に頼ってくるまでは』
笑うな。
優しく喋るな。
それ……反則だから……