何が不満なのよ。
何で喜ばないのよ!?
『アユ、俺……』
悩むな。
考えるな。
無心で私を抱けばいいんだよ。
『出来ないの?』
ちっとも動こうとしない十和に尋ねる。
顔は平静を装っているけど、今にも怒鳴り散らしてしまいそうだった。
『もう二度とここに来ないで』
最後の賭けだった。
十和を繋ぎとめるとか、取り返すとか、
そんなのどうだってよくなってた。
『私を抱かないなら、もう二度とここに来ないで』
ただ純粋に、十和に触れてほしかった。
何人もの男の人と出会ってきて、こんな風に思ったのは初めてだよ。
だからお願い、私を……
『わかった』
え?
抱いてくれるの……?
『おいで? アユ』
差し出された大きな手。
大好きなその手を、ギューと強く握りしめた。
悔しいけど、私は十和に堕ちた。
見事だよ。
絶対に惚れない自信があったんだ。
だって今までどんな人が来ても、揺らいだりしなかったから……
ベッドのスプリングがキシッと音をたてる。
倒された時に顔にかかった髪は、十和の繊細な指で退(ノ)けられた。
近い。
十和が近くにいる。
今にも唇が重なりそう……
『ッ……』
ううん、重なった。
二度目のキスは、ゆっくり、長い間重なるキス。
『アユ、目閉じて?』
キスの間も十和を見ていた私の目に、一つキスを落とす。
優しく髪を撫でられ、またキス。
まるで大切な物を扱うように、優しく温かく触れてくれる。
こんなふうにされたら、もっと欲深くなってしまう。
『十和』
彼の名を呼び、背中に手を回す。
思ったより広い背中に、安心感を覚えた。
私、十和の大切な人になりたい……