奈美に触れた手を捻(ヒネ)り潰してやりたい。
二度と誰にも触れられないように。

嘘つきな口も二度と開かないよう、塞いでやりたい。

……馬鹿ね。
そんな事したいわけじゃないくせに。

『アユ? 今日変だよ?』

本当は怒ってるわけじゃない。
ただ、どうしていいかわからなくて……

『とりあえずバスルーム行く?』

十和は少し困ったように笑うと、私の肩に手を回した。

大きくて温かい手。
私が父親に似てると褒(ホ)めた手だ。

私が欲しいのは、この手だと、ようやく気付いたの。

私はきっと、奈美が羨ましいんだ。
十和に抱かれた事。

体で十和を繋ぎとめる事が出来る事。

全てが羨ましくて仕方ない。

こうして私にも会いにきてくれるなら、それだけで満足だなんて、私には到底思えない。

源氏物語の世界と違うの。
一夫多妻は嫌。

私は、私だけを見る十和が欲しい。
だから、なんとかしなくちゃ……


そうか。
私も奈美と同じ事をすればいい。

『ねぇ、抱いてよ』

馬鹿な事してる?

でも例え馬鹿な事だとしても、私が十和を繋ぐ方法は、これしか思い付かなかった。

『最近、怪しまれてるんだよね。 シャワー室ばっか行くから』

奈美がお店のやり方で十和を喜ばせたなら、私はこうする。

『だから今日は部屋で、ちゃんとして?』

最後までさせてあげる。

ゴムなんて着けないで、
生身の私を感じさせてあげる

十和の好きなようにしてくれていいよ。

『これ以上怪しまれたら、本当にヤバいの。 ね? 今日はとりあえず』

また抱きたくなるように、私も頑張るから……