【今までで一番気持ち良かったよ】
私、そんな事知らない。
だって、十和に抱かれた事ないもの。
いつもお喋りして、お菓子食べたりお酒飲んだり。
十和、いつも笑ってた。
いろんな話してくれた。
「好きだ」って言ってくれた。
あれが全て……
全て無かった事になる。
奈美の物になる。
嫌。
嫌。
絶対に嫌。
どうして?
【やっぱ好きなんすね】
私の負けだよ、幸成。
あんた間違ってない。
私……十和の事……
『アユ!』
私の待機していた個室のドアが開く。
薄暗い室内に差し込むはずの廊下の明かりは、目の前の人物が長身のため届かない。
『……十和?』
逆光で見えにくいその人物を、背格好や声だけで判断し、名前を呼ぶ。
『いつもより少し早めに来ちゃった。 早くアユの顔見たくってさ』
優しい口調。
はにかんだ笑顔。
十和は、いつもと変わらない。
だけど私は知ってしまった。
十和が私に会う前、どこで何をしていたか。
『今日は、お菓子持ってきたんだ。 早く奥行こう?』
その声で奈美に甘い言葉を囁(ササヤ)き、
『アユ? 行かないの?』
私に差し出した、その手で奈美に触れた。
腕、体、唇。
全部、さっきまで奈美に触れていた。
そして、私が見た事のない十和のモノも……?
『十和』
『うん?』
十和、言ったよね?
私の事待つって。
『私の事、どう思ってるの?』
私が十和の事を男として見れるまで、待ってるって。
『何? いきなり』
『まだ、好きでいてくれてる?』
男だと意識して、色んな角度から十和を見た。
そして、男として好きになってしまったんだ。
『好きだよ。 まだ諦めないでいる』
……嘘つき。
嘘つき嘘つき嘘つき。
『ッ……』
奈美を抱いたくせに。