もう、何が何だかわからない。
自分が何をしたいのかも、よくわからないよ。

『十和さんが部屋から出てきた。 ……奈美と』

ゆっくり、恐る恐る話す美香。

美香が見て十和だと思ったんなら、それは十和なんだろう。
仕方ないけど、奈美を選んだんだ……

きっともう、十和は私を呼ばない。
ううん、呼んでほしくない。

十和と2人きりになったら私、きっと酷い事を言ってしまうもの。

責める資格もないくせに、十和を責め立ててしまうもの。

そんなの辛いよ……


『アユ、戻ろ?』

戻る?
一体どこへ?
いつへ戻ればいい?

十和に選ばれなかった理由。
それは一体何なの?

わからないよ……





『あ、奈美~。 お疲れ様ー』

私達が待機室に戻ってしばらくして、奈美が戻ってきた。

仲良しグループに入っていく奈美に気付かないふりを徹底し、私は顔にパウダーを叩(ハタ)いた。

正直、奈美を見たくない。
奈美の体を見たくない。

理由はわからないけど、見たら私の中の何がが壊れそうで……
恐かった。

『アユさん、指名入ったよー』

ドア越しに黒服の誰かが私を呼ぶ。

いつもなら憂鬱な呼び出しも、今日はここを抜ける手助けをしてくれたようで嬉しかった。

『アユ』

席を立つ私に、今までグループでお喋りをしていた奈美が声を掛ける。

それだけで、胸が締め付けられ、息がしにくくなった。

『上手いよねー、あの人。 綺麗な顔してんのに、意外と激しくてさ』

……それは十和の事を言ってる?

『今まで寝た客ん中で一番気持ち良かったよ。 あれってアユが仕込んだの?』

知らない知らない。
聞こえない聞こえない。

……聞きたくない。

『急いでるから、後にして』

そんな事、聞きたくないよ……